むらき数子の新・旧刊案内


[自薦他薦で寄せられた書名を載せています。むらきは内容を読んで判断する余裕がありません。読者各自でご判断ください。]


第789号 2020.6.8.「むらき数子 情報ファイル」i以前に紹介した本は
こちら⇒
※50音順のリストはこちら⇒


第308号2007.12.25
第314号2008. 2.12
第318号2008. 3.17
第334号2008. 8.16
第339号2008. 9.28
第352号2009. 1.15
第360号2009. 3.28
第363号2009. 4.24
第379号2009. 9.30
第398号2010. 4.10
第405号2010. 6. 9
第410号2010. 7.25
第416号2010. 9.21
第423号2010.11.29
第444号2011. 5.29
第448号2011 6.26
第455号2011 8.24
第464号2011.11.29
第470号2012. 1.23
第477号2012. 3.29
第489号2012. 7.12
第497号2012. 9.23
第506号2012.11.28
第512号2013. 1.28
第522号2013 .5.17
第532号2013. 8.29
第555号2014.4. 8
第565号2014.7 .3
第579号2014.11.10
第614号2015. 8.21
第628号2015.12.23
第641号2016. 4. 9
第649号2016. 6.23
第661号2016.10.25
第680号2017.4.29
第688号2017.7.17
第693号2017.9.10
第711号2018.2.21
第733号2018.11. 7
第739号2019. 1.10
第767号2019.12. 8
第789号2020. 6. 8
第798号2020. 9. 1

第843号2021.12.10
第859号2022. 6.20
第872号2022.11.1
第889号2023.5.15
第913号2024.1.7




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 第913号 2024.1.7 .「むらき数子 情報ファイル」
書   名 著者・編集/出版社 本体価格+税 *書評他
占領下の女性たち――日本と満洲の性暴力・性売買・「親密な交際」 ・平井和子
・岩波書店、
・2023.6.29
・3000円+税 [女の本屋 > わたしのイチオシ > 平井和子・著『占領下の女性たち――日本と満洲の性暴力・性売買・「親密な交際」』   投稿◆茶園敏美 | ウィメンズアクションネットワーク Women's Action Network (wan.or.jp)  より]

暗闇の中に葬られようとしている性売買女性たちに光を当てた渾身の著作

 2023年6月23日、これまでの性犯罪規定が見直され、不同意性交等罪が公布された。明治時代から110年間続いた強姦罪が見直されたのは2017年のことで、記憶に新しい。今回の不同意性交等罪は、2017年に改正された強制性交等罪と準強制性交等罪の不備をさらに補う内容になっている。
 このような最中、占領期のジェンダー&セクシュアリティ研究を加速度的に飛躍させる画期的な本が2023年6月29日、岩波書店から出版された。歴史学者である平井和子さんの新刊『占領下の女性たち 日本と満州の性暴力・性売買・「親密な交際」』である。       

本書は、平井さんの前書『日本占領とジェンダー 米軍・売買春と日本女性たち』(2014年有志舎・2014年度山川菊栄賞受賞)から9年を経た研究成果が凝縮されている。敗戦から被占領の流れのなかで圧倒的なジェンダー非対称の構造的な暴力下で、これまで過小評価されてきた「女・子ども」の生存戦略に注目することによって、暗闇の中に葬られようとしている性売買女性たちに光を当てることができた研究書である。

(続きは→ https://wan.or.jp/article/show/10728 ) 
昭和天皇の戦争認識:『拝謁記』を中心に ・山田朗
・新日本出版社
・2023.7.7 
たいてい、歴史書や教科書は古いほうから新しいほうへと、記述していく。

1931年の満州事変、1937年盧溝橋事件、1938年「東亜新秩序声明」、1939年米国が日米通商航海条約の廃棄通告、1940年北部仏印進駐、日独伊三国同盟、1941対米英開戦…というふうに。

この本の序章「日本の戦争をどう捉え、伝えるか―アジア太平洋戦争の開戦原因と戦争責任―」は、トピックの原因はその前の○○、その原因はその前の▽▽…と、時間をさかのぼって考えて行く。

まず、アタマを柔らかくしてから、タイトルにある「天皇の戦争認識」を読み進んでい

く本である。                     (むらき数子)
オーラル・ヒストリー聞き書きの世界 ・折井美耶子・宮崎黎子・生方孝子
・ドメス出版
・2023.8.15
第1章 スベトラーナ・アレクシエーヴィチを読む
第2章 森崎和江と石牟礼道子を読む
第3章 オーラル・ヒストリーの歩み
 Ⅰ 沈黙の地帯から(1958~)
 Ⅱ あの人は帰ってこなかった(1964~)
 Ⅲ ひたむきの女たち(1975~)
 Ⅳ 戦争と戦後を生きる(1985~)
 Ⅴ 今を生きる(2013~)
参考文献/学会・研究会紹介  折井美耶子
あとがき

 この本を「オーラル・ヒストリー研究会」が取り上げた2023年9月9日は、宮崎黎子さんを偲ぶ会でした。その日欠席だった折井美耶子さんも11月に他界されました。
 無常を感じながら、3人の著者が読み解いた聞き書きをたどりました。(むらき数子)
震災と女性
『女たちが動く 東日本大震災と男女共同参画視点の支援』




関東大震災 被災者支援に動いた女たちの軌跡


・みやぎの女性支援を記録する会編著
・生活思想社
・2012年


・浅野富美枝著
・生活思想社
・2023年
年明け早々の能登半島地震で、また被災女性たちの置かれた状況に注目が集まっています。

 本書は関東大震災時、女性たちの被害状況だけでなく、被災女性支援を行った女性たちの活動を資料を掘り起こして読み解いています。
 女性たちが行った支援活動は、東京だけではなく、横浜でも地元の女性たちがグループを作って活動をしました。
 全国の女学校では、支援物資の縫製などにかり出されました。
 これら、支援の内容をよりわかりやすくするために、当時の生活や社会状況の説明を丁寧に入れています。写真も多数掲載。
 若い人にも読んでいただける、読み物としても大変興味深いものになっています。もちろん被災支援活動も具体的に分析されていてひじょうに参考になります。
                   (生活思想社 五十嵐美那子)
南海トラフ巨大地震でも原発は大丈夫と言う人々 ・樋口英明
・旬報社
・2023.7.19
「あとがき」より
 「南海トラフ地震が伊方原発を直撃しても伊方原発の敷地には181ガル(震度5弱相当)の揺れしか来ない」あなたはそれを信じますか?
 大飯原発運転差止めの判決を言い渡した当時の裁判長が、最新の地震観測結果、科学的知見から明らかな原発の危険性をもとに、必ず起こる南海トラフ巨大地震でも伊方原発は安全だという四国電力の主張、それを認めた広島高裁判決の問題点を語る。
 広島高裁の決定は、南海トラフ地震の危険性を全く無視するような極めて不当な内容でした。
 「どうせ、国民には判決の内容は理解できないだろう」と思っているのです。
 それに対して皆さんに「国民を見くびるな!」と声を上げて欲しいのです。その声が、本分を忘れてしまった裁判官を初心に立ち戻らせる力となるかもしれません。
 そしてその声は、間違いなく、本分を尽くそうとしている裁判官を支える大きな力となります。 
なぜ日本は原発を止められないのか?

・青木美希
・文藝春秋
・文春新書1433
・2023.11.20
たんぽぽ舎【TMM:No4921】地震と原発事故情報2023.11.27より転載)
紹介者:柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
◎原子力ムラの村長は誰か?
青木美希さんが、新刊を文春新書として出された『なぜ日本は原発を止められないのか?』(287頁)がそれです。
 ひろいよみしました。いくつか興味ある文章が載っています。
 とりあえず「原子力ムラの村長は誰か?」の一文を紹介します。
◎104頁から105頁の一節
原子力ムラの“村長”
原子力ムラとは、何だろうか。
 前出の東海村の村上村長(当時)は、2011年8月2日に村内で行われた日本原子力学会のシンポジウムで、「政官業学とメディアが『原子力村』と呼ばれる共同体を形成し、原子力界の権威、権力に対する異論を排斥する社会風土をつくってきた」と語った(同年8月2日付「朝日新聞」夕刊より)。
 こうしたことから私は、政・官・業・学・メディアについて、それぞれ聞き歩くことにした。
  まず、原子力ムラの“村長”は誰なのだろうか。
  結論から先に言えば、それは歴代総理大臣だ。原発に税金を使い、国策で推し進め、原発を守る仕組みを作ってきた。
 実際に、原子力安全委委員長代理を務めた元日本原子力学会長の住田健二氏が、2011年5月4日のMBSラジオ「たね蒔ジャーナル」に原子力ムラの重鎮として招かれ、コメンテーターから「“村長”は東電かも」と言われた際に、「“村長”は内閣総理大臣だと思います」と発言している。
 その後、かつて関西電力がこの“村長ら”へ巨額献金をしていたことが明るみに出ることになった。 
詳しくは青木さんの著書をお読み下さい。
 
平和に生きる権利は国境を超える パレスチナとアフガニスタンにかかわって ・猫塚義夫・清末愛砂
・あけび書房
・2023.11.27緊急出版  
(2023.11.29チラシより)
 世界最大の「天井のない監獄」
 ガザの人道危機が進む今、パレスチナとアフガニスタンの支援活動を続ける医師と法学者が現地訪問の経験から、“平和的生存権”と”法の支配“と、日本人の私たちがなすべきことを問う。
もくじ
第1章 緊急対談
2023年10月7日のハマースの急襲とイスラエルの軍事行動をどうみるか       猫塚義夫×清末愛砂
第2章 北海道パレスチナ医療奉仕団の活動を支える日本国憲法
猫塚義夫
第3章 憲法研究者がなぜ国罪支援活動にかかわるのか
―平和的生存権と法の支配へのこだわり  清末愛砂
第4章 対談 医師と憲法研究者の目に映るパレスチナとアフガニスタン
猫塚義夫×清末愛砂
龍平 生き抜く勇気を ・川田龍平著
・奈良勝行編集
・高文研
・2022年
19才で薬害エイズの被害者として実名を公表し、国と製薬会社を相手に訴訟を起こし
厳しい裁判を戦い抜き、加害を認めさせた歴史的裁判の中心にいた川田龍平。

弱者の「いのち」を守る活動を国政の場からつづけ四半世紀。

社会的弱者や次代を担う子どもたちのいのちを大切にする社会へこの時代を生きる特に若い人に伝えたい「いのちのメッセージ」!         (2024.1.4チラシより
自分で考え判断する教育を求めて―「日の丸・君が代」をめぐる私の現場闘争史 ・根津公子
・影書房
・2023年
「戦争は教室から」という言葉があります。高校の現場で何十年か生徒たちと向き合った経験からこの言葉、他人事には思えません。

ぼくの住む立川の隣にある八王子の中学校で家庭科教員の根津公子さんが「日の丸・君が代」の強制に反対する闘いを始め、2011年に定年退職するまでの15年間で東京都教育委員会からの懲戒処分は合計11回。言葉の本当の意味で生徒たちに寄り添って攻撃と闘ってきた根津公子さんの、これまでの闘いをふりかえって、教育への思いが込められた本が出ました。

「過激」という言葉は時に非難のニュアンスを伴って語られます。けれども、「過激」を英語に置き換えての「radical」は「根源的」の意味も持っています。物事の一番の中心としての根源に手を伸ばして触れれば、必然的にradicalになるということですが、根津さんの不屈の闘いはまさにradical=根源的でした。今年2024年の最初にみなさんにオススメする本です。ぜひ手に取ってお読みください。   

([2024-1-4『1945ヒロシマ連続講座2016』「ヒロシマ通信」]より)
育て罰 
「親子に冷たい日本」を変えるには
・末冨芳、桜井啓太
・光文社新書
・2021.7.30 
「子育て罰」という言葉に一瞬ギョッとした、だが、女性・世帯が子を持った瞬間から背負ってきたあれこれを思うと、腑に落ちる。コロナ禍の直撃は記憶に生々しい。  

 「子育て罰」はもともと「child penalty:チャイルド・ペナルテイ」という学術用語だそうだ。

 著者たちは「社会のあらゆる場面で、まるで子育てすること自体に罰を与えるかのような政治、制度、社会慣行、人びとの意識。」と定義する。 

 政府が少子化を国難だと言い、「生め、生め」だけでなく、「生んで働け」と女性に妊娠・出産・保育所探し(保活)・就労を要求する政策を重ねてきた日本。

 ほんとうに、[子どもが欲しい=人口減少を食い止めたい]のなら、生みやすく育てやすい環境を作るしかないのではないか?

 どうしたら「子育て罰」をなくせるのか? あなたも読んでみてほしい。(むらき)
学校給食
2022年、岐阜県の福井県との境にある石徹白地区で、小学校の給食調理員として働いてきた方に出会いました。
 人の集まる席で「学校給食の思い出は?」と聞けば、口々に語られる思い出は即座に何冊もの本ができてしまいそうですが、給食を食べた=児童・生徒だった側の語りに対して、給食を作った側の語り・著書は極めて少ないことに気づきます。同じ、給食を作った側でも、栄養士に対して調理員の語りはさらに稀少でした。
 2005年「食育基本法」施行と栄養教諭制度開始により、学校給食を作る側には栄養教諭も増えて来ました。栄養教諭の登場する小説も現れています。
聞き取りを報告書にまとめた2023年は、コロナ禍とウクライナ戦争で給食費未納と食材高騰が露呈して、統一地方選の前後には、「給食費無償化」が保護者の運動と議員候補者の公約・行政の施策にとりあげられ連日報じられていました。それでも、全国の児童生徒100%に国が給食を提供するには遠い状況です。
朝から夕方まで学校で拘束しているのだから、昼食の提供は当たり前だという考え方も肯けます。
学校給食の歴史を概観してみて、今、コロナ禍で貧富の格差が拡大している日本社会において、子どもの条件を問わずに同じ食事を摂らせることの意義を再認識しました。
と同時に、なぜ、調理員という仕事は怪我も多く労働災害が多いのに待遇が低いのか、なぜ国はパート化・民間委託を進めてきたのか…という疑問が深まりました。                               (むらき数子)

・むらき数子「岐阜県・石徹白地区、女の働き」『昔風と当世風』 第108号、2023.12.1
・唐崎ナツヱ『泣いて笑って27年―給食おばさん奮闘記―』1984.3 
・日本消費者連盟『学校給食はこれでよいか-食の文化をもとめて-』三一新書、1986  
・鴈咲子『給食費未納-子どもの貧困と食生活格差-』光文社新書、2016 
・平澤さえ子『給食のおばさん、ブータンへ行く!』 飛鳥新社、2017.1 
・藤原辰史『給食の歴史』岩波新書、2018.11
・松丸奨『給食が教えてくれたこと 「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』くもん出版、2023.7.21 
・『給食室のいちにち』 文大塚菜生、絵イシヤマアズサ、少年写真新聞社、2022.8.1  (添付の図)
・遠藤彩見『給食のおにいさん』幻冬舎文庫、2013~2016[これは小説です]

・『日本農業新聞』2023年2月22日
「「学給無償化」自治体3割で実施 本紙調査 継続へ財源課題」
 ロシアのウクライナ侵攻や円安に伴う物価高騰を受け、小・中学校の給食を実施する全国約1600市区町村の3割が、2022年度に給食費を無償化したことが日本農業新聞の調査で分かった。…(中略)…
 小・中校とも複数月や通年で無償化した市町村は全都道府県で計451に上った。人口は数千から5万前後が大半だが、20万規模の市もある。6割近い263が物価高騰が始まった22年度から臨時交付金を活用して無償化し、食材費の価格高騰分も補填(ほてん)している。一方、21年度以前から無償化している自治体は自主財源が多い。…(中略)…
 無償化した市町村数の多い順では、北海道51、埼玉県27、福島県23、大阪府19、山梨県と奈良県18、群馬県17など。給食実施自治体数に占める無償率が高いのは、山梨県7割、群馬県5割強、埼玉県5割、奈良県4割強。(下略)」
踏切警手 ・『朝日新聞』 2023年11月25日 3時30分
「(サザエさんをさがして)踏切警手 安全守り命がけ、今も現役」(1963年1月22日朝刊)
・佐藤ゆかり「日本の女性踏切警手の歴史~鉄道界の女性初は1879(明治12)年から~」『三重の女性史研究会 会誌 第2号 みえる みせる HERSTORY』2020.3.8、p87
 マンガ「サザエさん」の踏切警手は男性でしたが、佐藤ゆかりさんによれば、女性も多かった職種でした。

日本の鉄道業界における女性活用には二つの波がありました。
 「第一波は、日中戦争から太平洋戦争の中、男性労働者が次々に徴兵される国内の各職場で、代替労働力を女性に求めた政策である。1941(昭和16)年厚生省は「男子青少年使用を制限し女子を使用すべき職種に関する件」を通牒。2年後の43年、17業種について14~40歳未満の男子就業を禁止し、女子代替を規定した。その中には、鉄道業界の職種である出改札係、車掌、電話交換手とともに踏切手も含まれていた。しかし終戦後、男性労働者の復員によって、多くの女性労働者は人員整理の憂き目を見た。
 第二波は、1985(昭和60)年制定の男女雇用機会均等法による流れである。…各社で新たに女性駅員や乗務員が採用され、女性用の制服も新たにつくられた。」
 しかし踏切警手は、1879年日本初の女性鉄道従事者が知られ、1916年、踏切警手の63%は女性でした。「ご飯の支度も、洗濯も、掃除も何から何まで2,30分ごとに通過する列車のダイヤに合わせて小刻みに片づけた」などと、長時間のこま切れ勤務と家事育児を担う過酷な暮らしでした。
24時間看守になると女から男へ換えられ、踏切自動化によって警手そのものが減少していきました。

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 第889号 2023.5.15 .「むらき数子 情報ファイル」より

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 第872号 2022.11.18 .「むらき数子 情報ファイル」より
書   名 著者・編集/出版社 本体価格+税 *書評他
ラブコールさかい 女に議員はムリですか?―境町初の女性議員の体験をあなたにつなぐ

・内海和子
・梨の木舎
・2021.3.15
梨の木舎HP】より―
茨城県西地区、猿島郡境町。境町議会初の女性議員として1999年から2017年、4期にわたって保守的な地方政治に挑んだ女性議員の奮闘記。
保守風土の地方政治に挑んだ女性議員の奮闘記。
「化け物屋敷」に例えられる議会で彼女が見たものは?
女性がいることで推進できた政策、「この町ではまだ早い」と頓挫した政策。
バトンを受け継ぐのはあなただ。【推薦】三浦まり(政治学者)

この本を読むと女性議員が少ないと未だに問題になっていることに愕然とし、同時に参考にもなるタイムリーな出版でもあると思いました。        (東京、KN) 
戦下のレシピ―太平洋戦争下の食を知る

・斉藤美奈子
・岩波書店
・2002年 
高度成長期の食の変化の一つに、カレーやシチューのルウ(具を煮た鍋に割り入れて溶かすだけの商品)の登場があった。
じゃあ、それ以前のシチューって、どんな作り方をしていたのだろう?

昭和30年前後(1950年代)の私の記憶では、主にジャガイモを茹でた鍋に、水溶きした小麦粉(そのころの呼び名は「うどん粉」)を流しいれて加熱し、とろみを出した汁もの、だった。それは、母の発明だったのか? 婦人雑誌や新聞の家庭欄などのメデイアによるものだったのではないか?

婦人雑誌に詳しい友達に教えられて、斉藤美奈子さんの本『戦下のレシピ―太平洋戦争下の食を知る』を読み直した。

斉藤美奈子さんは、戦時の統制・廃刊を潜り抜けて敗戦まで刊行を続け、なお戦後まで残った婦人雑誌三誌『婦人之友』『主婦之友』『婦人倶楽部』に載ったたくさんのレシピと写真を満載してくれていた。
そればかりでなく、29ページ以降に、大事なことを書いていた。

「婦人雑誌が広めたものは、…単なる料理のレシピではない。もっと重要なのは、家庭料理にかんする考え方を一新させたことだ。」と、「栄養学の知識」と「家庭料理イデオロギー」の二つをあげている。

「手作りの料理は母の愛情のあかしである」という考え方は、人類普遍ではないらしい。斉藤美奈子さんは、「愛情と料理の間には、本来、なんの関係もないのだ。」と言う。

かつて、高齢者向けの配食サービスを、「どこの馬の骨ともわからん者が作ったものは食べとうない」と拒否した男性がいた。

家庭外で食べる「外食」、調理済み食品を買う「中食」、家庭内で調理する「内食」、一万食の学校給食センターから搬送される「給食」、一人暮らしの「孤食」…

「愛情と料理の間には、本来、なんの関係もないのだ。」 
                          (むらき数子)
 『ハテルマシキナ-よみがえりの島・波照間― 少年長編叙事詩』、  

・桜井信夫
・津田櫓冬画
・かど創房
・1998年
2023年4月、友人が『ハテルマシキナ-よみがえりの島・波照間― 少年長編叙事詩』を取り出して見せてくれました。児童文学らしい体裁の単行本です。
「それって、津田櫓冬さんの描いた絵本とおんなじタイトルだ、絵本のほかに、文章主体の本も刊行されていたのかな」と思わず言ってしまいました。

2016年、津田櫓冬さん(1939-2020)にインタビューさせていただきました。
津田さんに、「絵本を描くという仕事を、何と呼んだらいいですか?」とうかがうと、「『絵本作家』でしょうね、さし絵の時は『さし絵画家』」という答えでした。
津田さんのお仕事には、反戦反核という姿勢が貫かれています。
絵本『トビウオのぼうやはびょうきです』(いぬいとみこ作、絵・津田 櫓冬、金の星社、1982年)はその代表作と言ってよいでしょう。

『ハテルマシキナ』は、桜井信夫さんの文章で「もうひとつの沖縄戦」を伝えています。「もうひとつの沖縄戦」とは、米軍の上陸に備えて、日本軍が波照間島などの住民をマラリア有病地に強制移動させ、多くの罹患者・死亡者を出した「戦争マラリア」―軍隊は住民を敵視する・軍隊は住民を守らない―を描いています。津田さんの描いたさし絵が心に残りました。

ところが、インタビュー当時、私の関心は、津田さんのお仕事のうち、『あなたがうまれるまで こころ からだ いのちのえほん7』(北沢杏子、津田櫓冬絵、岩崎書店 、1985年)や、『おかあちゃん がんばる』(山本なおこ作、津田櫓冬・絵、フレーベル館、1982年)などの、出産~育児にあり「ワンオペ育児」にありました。

インタビューを織り込んだ文章をまとめてから時間がたつにつれて、『ハテルマシキナ』を絵本だったと思い込んでしまっていたのでした。

 同じタイトルの絵本と単行本の2種類があると言ってしまったことを取消して、改めて、津田さんがさし絵を描いている単行本『ハテルマシキナ』を皆さんに勧めます。          (むらき数子)
『ぼくはナチにさらわれた』


・アロイズィ・トヴァルデッキ
・足達和子訳
・共同通信社
・1991年
ウクライナの子どもたちをロシアが連れga/b889-4去り、ロシア人として育てようとしているというニュースに、ドイツの「レーベンスボルン」を描いたこの本を思い起こします。
 <他民族の子どもの誘拐ないしは略奪>によって、自国民をふやすという政策は、どんな国家により発想されどのように実施されたのか? 子どもはどうなったのか?
以下、「この手記を読まれる方に―訳者解説」より― (むらき数子)

p.8「この手記を読まれる方に―訳者解説」
 「レーベンスボルン」とはいったい何でしょうか。それはドイツ語で「生命(いのち)の泉」という意味です。ヒットラーがあみ出し、ハインリヒ・ヒムラーが具体化させた、これは優秀な子どもを増やすための秘密組織でした。・・・

 「レーベンスボルン」には二つの顔があります。一つは公的な顔、もう一つは秘密厳守の決して表に出してはならない陰の顔で、前者は子どもと母親を守る社会福祉の政策でした。しかし、この公式の部分でさえ社会に広く宣伝することは厳禁、というのも「レーベンスボルン」の保護を受けられるのは「人種的に」優れた子どもと母親だけだったからです。・・・

 陰の顔には二つの横顔があります。その一つは優秀なドイツ人を数多く、自然の出生を待たずに組織的に産ませることで、それは日本にも戦争中あったような普通の多産の勧めではありませんでした。

 陰の顔のもう一つの横顔は―こちらが本書の主題ですが―他民族の子どもの誘拐ないしは略奪でした。・・・「レーベンスボルン」は周辺諸国の基準に合った子どもたちを1941年の後半から略奪するようになりました。(下略)
「都市の「表札」―東京都調布市―」
『民具マンスリー』第56巻1号、


・むらき数子
・2023年4月 
岩手県八幡平市で「屋号 ばくろど」などの表札を見たのをきっかけに、地方・農山村における表札と、都市における表札とは、何がどう異なるのだろう、と考えてみました。

個人情報を戸外に晒す「表札」は、世界的には極めて稀なものだと指摘されています。

調布市は、近郊農村が高度経済成長期に急速に宅地化した地域です。急増した人口のほとんどは、他地域で育った「新住民」でした。開発から60年経て、住民も建物も代替わり・建替えが進んでいます。

徒歩でひとめぐりする範囲の約400戸のうち、表札を掲示している237戸について、集計してみました。

文字は、漢字(ひらがなを含む)だけが67%、漢字・ローマ字併記が13%、ローマ字だけが20%。
番地を記しているのは、24%。
個人情報は、「姓名」19%。「姓のみ」81%。

実際には、20年以上も前に亡くなった男性の姓名を記したままのものもあるように、居住者の実態を表しているとは限りません。女性名を掲げると、空き巣狙い・押し買い・強盗・性犯罪などの標的にされます。そもそも、約4割は表札なしで暮らしているのです。
なんのために、表札を掲げるのでしょうか? 
表札は不可欠なものなのでしょうか?        (むらき数子)


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書   名 著者・編集/出版社 *書評他
旅のネコと神社のクスノキ

・池澤夏樹
・絵:黒田征太郎
・スイッチ・パブリッシング
・2022.8.6。
絵本の巻末に「ヒストリー陸軍被服支廠」が載っています。

絵本のあらすじは―
 ネコが1945年7月、小さな神社のクスノキから、あの建物は「陸軍被服支廠」で、兵士の服を作り、繕って戦場へ送るところだと、聞いた。
 9月末、ネコがひどく疲れてもどってきた。町も草木もなくなっていた、何がおこったの? と問うネコに、クスノキは答える―

 「この国のヘータイさんがうったたまや おとしたばくだんがぜんぶ一つになって返ってきた」
倒壊しないで残っていた「陸軍被服支廠」の建物に、たくさんたくさんたくさんの人がたどりつき、運ばれてきて、その中で死んだ。焼いて灰にされて、すぐ前の空き地に、たくさんたくさんたくさん、埋められた。……
                             (2022.11.18むらき数子)

【参考:●2022.12.7(水)19:00-20:30@zoom & facebook 配信
オンラインイベント
「被服支廠キャンペナーズ座談会~広島県のワークショップを終えて思うこと~」
参加をご希望の方は、こちらよりお申し込みください。↓
 https://forms.gle/9QCvuPCiqgE6pse28
主催:旧広島陸軍被服支廠倉庫の保存・活用キャンペーン 】
路傍の石

・山本有三
・山本有三全集第九巻
・編集後記・高橋謙二
・新潮社、
・1976
ふとしたことから、今頃になって「路傍の石」を読み通した。

『主婦之友』昭和15(1940)年8月号に掲載された「ペンを折る」は、40年くらいも前に知っていたが、高橋健二による「編集後記」でその背景を読んだ。  (p440)

  「著者はもちろん第二部まで完成させるつもりであったが、二年ほどの間に戦争は拡大して国内のけわしい情勢は作者の周辺にもおよび、小説の内容にいちいち検閲の圧力が加えられるようになったため、ついに十五年七月号をもって著者は執筆を打ち切り、翌八月号に「ペンを折る」を載せて連載を中止した。」

高橋健二の「編集後記」が、この全集所収に至るまでの、三通り(「朝日新聞連載」「主婦之友、岩波版全集」「鱒書房版、山本有三文庫(新潮社)」の差異を記してくれたおかげで、昭和10年代の大日本帝国による検閲だけでなく、戦後には「外国の占領下」における検閲があり、「自由に書ける時代」ではなかったことを思い知る。

で、どこが検閲担当者の逆鱗にひっかかったのか、を見てみると、「お月さまは、なぜ落ちないのか」で、腕の良い文選工である得次のセリフかなと思う。
(p。348)

 「おれたちは働かなくっちゃいけねえ。しかし働くと言っても、主人をもうけさせるために働くのや、自分の金をためるために働くんなんか、つまらねえこった。働くんなら、だれもが浮かびあがるよう、だれもが落っこちねえように働くんでなくちゃ、なんにもならねえ。-」
 「ちょっと待ってくれ。おめえの話は、そりゃ……」
 えり首にケムシが落ちてきたように、吾一はいやな気もちがした。

「主人の心を自分の心として」、ひたすら働きぬいて「成功」することを信条としている吾一は、得次の「手をつなぐ」思想を敵視する側に居るのだが、検閲そしてそれに同調する世間は、脇役にすら体制批判の思想を許さず、小説の連載を断念に追い込んだのだった。

「日本国憲法」、その「表現の自由」「思想信条の自由」を無上の価値としてその実現に努めて生きてきた。改めて「検閲」それに連なる「自粛警察」の恐ろしさを思う。 (むらき数子 2022.6.24)
戦争とバスタオル

・安田浩一・金井真紀(文と絵)
・亜紀書房
・2021
タイトルを見て、戦時下の繊維産業・タオルのゆくえ、という本だろうと思った。
開いてみたら、著者二人がバスタオルを携えて風呂めぐりをする本だった。
「蟷螂の斧」ということばがある。著者・金井真紀さんは自ら「カマキリ」となって宣言する―

  「わたしたちはお風呂が好きだから、いろんなお風呂に入る本はどうだろう。湯けむりの先にある歴史の真実を紐解く。最高に気持よくて、まじめな本をめざすのだ。首を洗って待っていろ、歴史修正主義! こうして金井カマキリと安田さんは斧の先にバスタオルを引っかけて旅に出たのであった。」

 行く先は、タイのジャングルの露天風呂、沖縄の「ユーフルヤー」、韓国の「沐浴場」などなど。金井カマキリは時にワニにも化す。(2022.8.10むらき)
○宮崎玲子、台所シリーズ
 
 世界の台所博物館



・柏書房 
・1988
私は30年近く、民俗学の民家調査について歩いてきましたが、イロリとカマドの違い、屋根型の違い、水源排水の違いなど、腑に落ちないままでした。
今夏、たまたま、宮崎玲子さんの著作をまとめて読みました。

 「北の国と南の国」論を読んで、昼夜の長さが、火の使い方の地域差を生んだこと、火を明かりと暖房に必要とした北の国では鍋は吊り、火を調理に短時間必要とした南の国では鍋は置いて使う――胸にストンと落ちました。

 それが、台所での水の扱いの違いともなり、北の国では煮込み・保存食、南の国では調理してすぐ食べるという違いにもなる……
 日本のいろいろな地域を知るだけではわからない、地球規模で知って考えることの大切さを改めて感じます。

 著者とは、10余年前から知り合いなのに、世界のさまざまな体制・文化の暮らしに単身で飛び込んで取材・執筆してきた女性だとは想像もしたことがありませんでした。
多様な国々の台所を、宮崎さんのあとについて覗き歩く気分で読みました。          (2022.8.15むらき)
 台所から覗く北の国と南の国
   -火と鍋と暮らし-上
・原書房
・1992
 オールカラー世界台所博物館 ・柏書房
・2009
第859号 2022.6.20 「むらき数子 情報ファイル」より 
書   名 著者・編集/出版社 *書評他
連合赤軍事件から50年
  •  『裏切れない!「蛙」の声が今も聞こえる・連合赤軍50年目の対話』
・片井博美
・彩流社
・2022.1.30
  • 『優しさをください 連合赤軍女性兵士の日記[新装版 ルネサンス版]』
・大槻節子
・彩流社
・2022.1.30
  •  『連合赤軍27年目の証言ルネサンス版』

植垣康博
・・彩流社
・2022.2.3
  • 『私だったかもしれない ある赤軍派女性兵士の25年』
・江刺昭子
・インパクト出版会
・2022.6.10
【あとがき】から―
 
 明治の自由民権運動の時代から、景山英子、管野すが、伊藤野枝、金子文子、赤瀾会や非合法共産党の活動家など、革命系の女たちの系譜がある。連合赤軍事件は戦後史の大事件なのに、女性史分野では無視されたままだ。彼女たちがめざした社会像や果たした役割を、失敗も含めて検討し、戦前から連綿と続く革命運動の戦列に加えるべきではないかと考えた。
もっと生きていたかった
  風の伝言
・石川逸子
・一葉社
・2021
挑発する少女小説

・斎藤美奈子
・河出書房新社
・2021
(むらき数子)
この本には絵がない。新書版の表紙は真っ白の地に黒い題字が記されているだけ。
それなのに、取り上げられている本の、場面が、カラーで浮かんでくるのは、多くが映画やアニメで見たことがあるからか、あるいは著者の筆の力か。
 この本には、『小公女』、『若草物語』、『ハイジ』、『赤毛のアン』、『あしながおじさん』、『秘密の花園』、『大草原の小さな家』、『ふたりのロッテ』、『長くつ下のピッピ』という7本の少女小説が取り上げられている。
19世紀に書かれて100年もたっている作品に「なぜあの手の作品に多くの女性が少女時代の一時期夢中になったのか、その理由を知りたいと思ったのがきっかけでした。」と斎藤美奈子さん本人が書いている。
「それで読み直してみると、やっぱりね、そうだよね、と思うところが多々ありました。半面、子どもの頃には気づかなかった発見もありました。」
美奈子さんがバッサリ切って捨てる、気っぷのいい文章、胸のすく思い。分析もうんうん、そうだよね、と同感することしきり。
私も、『赤毛のアン』を取り上げたことがあった。19年前に「ジャガイモ談義」で、2年前には「おらあ三太だ!」で(※1)。
美奈子さんは「おわりに」p.266で、女性の友人たちに尋ねると「ほぼ100%の確率で「読んだ読んだ。子どもの頃に熱中しました」と答えてくれました。一方、男性の友人知人に尋ねると、これまた100%に近い確率で「一冊も読んだことがないです、ハハハ」という反応でした。」
小学校5年の男児ルカが、両親が子どもの頃に読んだ本『小公女』『あしながおじさん』『赤毛のアン』を読みはじめるという設定(※2)は、珍しいことなのだろうか。
男性たち、美奈子さんのこんな面白い本を読まないまま年とって死んじゃうなんて、すっごくもったいないと思うよ。

※1「むらき数子情報ファイル」  第117号 2003.11.22 (23)~第125号 2004.1.4(28) 
 (23)『赤毛のアン』①おしゃべりな女の子~ (28)赤毛のアン⑥少女たちの行方
 第803号 2020.10.13「おらあ三太だ!(571)アルフレッド・クッキー
※2 『ぼくは本を読んでいる。』ひこ・田中、講談社、2019
ごみ収集とまちづくり
―清掃の現場から考える地方自治―



    
・藤井誠一郎
・朝日選書
・朝日新聞出版
・2021.8.25 
 
コロナで、めっきり出歩かなくなりました。通勤電車に乗る必要がない、スーパーへ買い物に行くだけ。毎日、朝夕の三太との散歩がなくなり、門の外に出ないで終わる日が増えています。ごみ集積所への往復さえしない、集積所の掃除当番という近隣との接触もありません。
そんな暮らしが可能なのは、現在住んでいる自治体がごみを戸別収集してくれるから。
『ごみ収集とまちづくり―清掃の現場から考える地方自治―』を読んで、東京都北区では、滝野川地区だけ戸別収集していること、戸別に収集する仕組みがどうなっているかを初めて知りました。
私の今の暮しが、エッセンシャルワーカー(清掃職員と「会計年度任用職員」と業務委託の清掃会社の従業員)のおかげで可能になっていることを改めて感じながら、この本を紹介します。    -むらき数子

「筆者(藤井誠一郎)はこれまで清掃の現場に身を投じ、主に公共サービスのあり方の観点から清掃行政の実施体制を調査してきた」
 2020.4.1現在、東京都北区の清掃行政は、「王子庁舎・滝野川庁舎・浮間分室には清掃職員127人、事務職21人、合計148人+会計年度任用職員+清掃会社」が担っている。
「行政改革(=行革)」という名の公務員減らしは、正職員身分で働く人の数を減らしてきた。積極的に「首切り」をしなくても、退職不補充で新規採用をしない、という穏やかな方法で、どこの役所でも、非正規公務員におきかえてきた。
 この本によれば、東京23区の清掃の現場では、かつて8000人だった職員は半数以下。20年間に新規採用をしていない区は5区もあるという。北区では18年ぶりに新人が入った。職場の人事・職務の継承において、ものすごいイビツな状況だ。
公的な職員数を減らしても、実際の作業量を減らせるわけではない、それを埋め合わせるのが、パート・定員外・臨職などさまざまに呼ばれてきて今では「会計年度任用職員」と呼ばれる非正規公務員と、外注・雇い上げ・委託などの民間企業。
「必要な仕事」「ないと困る仕事」が、社会的に低く見られ、行政サービスの重要な一部であるにもかかわらず外部化され、非正規公務員に負わされている。
同じ作業に従事していても、身分待遇が異なれば、業務上の連絡も遠まわりしなければならない、著者が言う「ブラックボックス」である。昼食を一緒に食べたり来年の予定を話し合ったりすることはない。非正規の立場では、アパートを借りて結婚して…という夢を見ることも難しい。
「非正規」という働き方をせざるを得ない多数の人々の来年を思い描けない暮らしによって、私の出かけないで済む暮らしが成り立っている。
「ないと困る仕事」に従事する人が正当な報酬と評価をうけられる社会であってほしいと思う。

 民俗調査として、昭和30年代の町村の広報誌バックナンバーを見てきた。
農事暦と農村の新生活運動が紙面から消えていき、道路や公民館・学校などの公共施設の建設、上下水・し尿・ごみ・火葬場という「環境」、ところによっては河川汚染・光化学スモッグ・農薬被害などの「高度成長」「都市化」に行政の関心・予算が注がれるようになっていくのが見て取れる。町村それぞれにユニークだった紙面は、住民に消費者としての知識・イベントを提供する、レイアウトも変わり映えのない紙面になっていく。
農山村の暮らしでは、自家の敷地内で処理されていた「生ごみ」汚水に対して、行政が、「環境」整備として、プラスチックやガラス・缶などの不燃ごみの回収・汚水処理の「浄化槽」奨励から下水道設置、簡易水道から上水道整備へと、「インフラ」整備が広報誌の毎号の主な話題となり、住民にその享受の仕方・費用負担を指導していた。

 1990年代に住んだ茨城県西の農村では、地元の兼業農家と非農家の新住民との「混住化」社会となっていた。 
食材はスーパーで買う。上水道は普及し、汚水は敷地内の合併処理槽や下水道、ごみ袋に入れたごみは集落ごとに設置された集積場に出す。集積場の掃除当番が回ってきた。日常の暮らしは、首都圏のマンションと同じだった。

 2004年、転入した東京都調布市では、ごみは「戸別収集」だった。それまで、集積場やマンションのごみ置き場まで「ごみ出し」すれば、あとは誰がどう扱うのかを見ることもなかったのに対し、自宅の門の前に置いたごみ袋を一軒一軒歩いて集めて清掃車に積み込む作業員を見かけるようになった。でも、「戸別収集」の仕組みは知らないし、作業員がどんな身分・待遇で働いているのかも知らないままだった。
『ごみ収集とまちづくり』によって、東京都北区での、戸別収集の仕組みと、従事者の一日、清掃労働の歴史の一端に触れた。
最近の調布市ごみ対策課広報誌『ザ・リサイクル』に「調布の清掃作業員さんに聞きました」というインタビュー記事が3回連載された。(令和3年7月20日号第87号、令和3年11月20日号第88号、令和4年3月20日号第89号)
これによれば、調布市の戸別収集方式は、「燃やせるごみ」「粗大ごみ」「古紙」と分別したそれぞれを、会社(株式会社調布清掃、株式会社吉野清掃、むさし野紙業株式会社)の人が担当している。

著者は、清掃労働の現場で、女性に出あって驚いた。2017年に若い女性が非常勤職員として入ってきたとき、大田区蒲田清掃事務所の男達が「嘘ではないか」と驚いたという。そして「女だから」「女なのに」という目・言葉の中で、当該女性が「ないと困る仕事でしょ」と、職場になじみ、清掃車が「出発したら男も女もない」と言う仕事への姿勢を描く。

職場に女性が入ることで男社会に風穴があき、人権感覚にめざめて働き続けやすい労働環境へ変わって行く流れを著者は評価している。それなのに、業務において「女性の活躍」「女性ならではの視点」を期待しているのは、なんだかおかしい。

「ごみ出し」は、男が行う率の高い家事としてあげられてきたが、ごみに関する家事の最末端部分である。清掃車と清掃職員に接する機会の多いのは今も女性であろうが、単身世帯が多くなっている現在、「ごみを出す側の視点」から考えたい。
『葬送文化』第22号 ・2021.2.5 
・日本葬送文化学会
 2020年4月7日の内閣官房の「緊急事態宣言発出」を受けて、10日、東京都が発表した「新型コロナウイルス感染拡大防止のための東京都における緊急事態措置等」は、「社会生活を維持するうえで必要な施設」の一つに「葬儀場」を挙げた。
5月4日、専門家会議が提唱し、全国の自治体が拡散した「新しい生活様式」の実践例に、「冠婚葬祭などの親族行事」があった。 
 5月21日には結婚式場業の、6月18日には霊柩運送事業のガイドラインが策定され、7月29日には厚労省・経産省の名のもとに「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方およびその疑いのある方の処置、搬送、葬儀、火葬等に関するガイドライン」が作成された。
「親族行事」とは耳慣れない言葉だったが、関連事業者にとって、これらの「国策」のもとで葬儀も結婚式も、変化を余儀なくされてきたことが、知られる。
 葬儀について、おおざっぱに言えば、高度成長期以降に、葬儀事業者が運営する、施設での、会社関係中心の葬儀(二日にわたる通夜と告別式、参列者多数(数百名)の大規模葬儀、会食)が、全国に普及していた。
コロナ以降、「自粛」と簡略化が進んでいるという。たとえば、直葬、一日葬、少人数化、宗教離れ。葬儀に不可欠であった、多人数の会食は、他県在住の家族の「県境をまたぐ移動」禁圧もあり、少数の参列者の持ち帰り弁当に置き換えられつつある。「今後においては「単身化」と「格差」は、ますます大きな問題となる。」と碑文谷創は言う。
高度成長期に、死ぬ場所は自宅から病院へ移行していたが、死後のケアから納棺にいたる担当をめぐって、医療機関と葬儀関連事業者との間には「大きな相互不信があった」。が、ガイドライン策定によって、「標準化した」とも記されている。
どんな人も、死後の始末は他者に頼らなければならない。が、その儀礼や習慣・価値観は短時間で変わるものであることも、コロナ禍によって知ることになった。 (むらき数子)
  • コロナ禍と葬儀に与えた影響
・碑文谷創
・p25-52
  •  2020年に何が起きたか
・大林三恵子
・p53-58
『自由時間』Vol.19
 2022.6.6(東京都あきる野市)

【目次】
「国籍の壁を越えて、共に生きるということ―在日・コリアン女性が語る  吉澤エミ」
「つむぐの会 座談会「東京オリンピック どう見た?」
「寄稿 韓国人元BC級戦犯者 李鶴来さんの闘いを忘れない  穂坂晴子」
「公民館は一日にしてならず 「有料化」反対運動に思う  田島すみ子」
「小さな詩 影あそび・バナナかぞえ唄  町田輝子」
「横田基地の騒音 何とかなりませんか? 「日米地位協定の改定を求める陳情」、仲間たちと出してみた…   原 和美」
 

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第843号 2021.12.10 .「むらき数子 情報ファイル」より
書   名 著者・編集/出版社 本体価格+税 *書評他
存在しない女たち 男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く

存在しない女たち
・キャロライン・クリアド=ペレス著
・神崎朗子 訳
・河出書房新社
・2020年
「社会に存在しないことになっている私たちのための実用書  評・北村紗衣
 私たち女性というのは、どうもこの社会にはいないことになっているらしい……というのは、以前から私は気付いていたことだ。世の中は小柄な女がいることを想定せずに設計されているので、鉄道のつり革をつかんでいると手が痛くなるし、自宅の物干しは手が届かないくらい高いところにある。私は研究者なのだが、勤め先の大学の授業時間は子育て中の親、とくに母親が子供を育てながら働けるようなスケジュールにはなっておらず、この状況は文部科学省のせいでどんどん悪化している。

(続きは→ 社会に存在しないことになっている私たちのための実用書――キャロライン・クリアド゠ペレス著『存在しない女たち 男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』|Web河出 (kawade.co.jp) )
ゆるぎなき自由ー女性弁護士ジゼル・アリミの生涯 ・ジゼル・アリミ、アニック・コジャン
・井上たか子訳
・勁草書房
・2021
[訳者あとがき]
本書は、二〇二〇年八月にパリのグラッセ社から出版されたUne farouche liberté(御しがたき自由への渇望)の全訳である。著者のジゼル・アリミは、奇しくも、その少し前の七月二八日、九三歳を迎えた誕生日の翌日にその生涯を閉じた。本書はわたしたち女性への、そして、共著者のアニック・コジャンが「序文」で記しているように、とりわけ#MeToo 世代の女性たちへの、アリミからの遺言だとも言えるだろう。少なくともわたしはそんな気持ちで、彼女が灯してくれた「松明の火」を未来へとつないでいくことを願いつつ翻訳した。

続きは→ https://keisobiblio.com/2021/11/11/atogakitachiyomi_yuruginakijiyu/ 
災害からの命の守り方-私が避難できたわけ― ・森松明希子(福島原発避難者)
・文芸社
・2021
この10年間、国内外でも大きな災害・事故・事件が起こっています。しかし、原子力災害は人類の歴史上、とても大きな災害であり人災です。放射性物質を広範囲に撒き散らす「公害」の最たるものだと私は考えます。発災当時住んでいた「福島」という地で、原子力災害を目の当たりに体験した私が「今できること」は何だろうかと、10年に及ぶ避難生活の中、ずっと考え続けてきました。

”放射線被曝から免れ健康を享受する権利は、人の命や健康に関わる最も大切な基本的人権にほかなりません。”是非、お読みください。(調布市 S.M.)
『地図から消される街』
 ~3・11後の「言ってはいけない真実
・青木美希
・講談社現代新書
 
・920円(税別)  タイトルは「消された」街ではなく、「消される」街。
1 この「る」の一文字で、現在進行形だという事が分かる。
 消されようとしているのは東電福島第一原発事故。   (W.M.)
こんど、いつ会える? 原発事故後の子どもたちと、関西の保養の10年 ・ほようかんさい編
石風社刊
・262頁 
今度いつ会える るいは寄付を募って、原発事故の影響の中にある子どもや家族たちを受け入れ続けてきた日本の保養。自発的に市民が立ち上がって、10年間続いてきた稀有な活動ですが、その姿はほとんど知られていません。(下略)

宇野田陽子(ほようかんさい運営委員/ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン事務局)
申込先 → ayupertiwi@rice.ocn.ne.jp(宇野田陽子)
(小説)『天久鷹央の推理カルテ』 ・知念実希人
・新潮文庫
・2014
小鳥遊(たかなし)優(ゆう)が、大学病院から派遣された総合病院で配属されたのは「統括診断部」。部長天久鷹央は、「外科医が手術の時に着る薄緑色の術着の上に、ややサイズの大きすぎる白衣を纏った華奢で小柄な女性」。小鳥遊は2歳年下の上司にこき使われ、各科で「診断困難」と判断された患者がもちこむ難題・怪事件にまきこまれる。

――読み終えて気づく、同僚医師や看護師などから「恋人」か「ラブラブ」かと好奇の目を向けられる中で、小鳥遊は、天久鷹央の態度・言動について「女らしくない」とか「女のくせに」「女だから」などと一切言っていない。これって、珍しいことじゃないだろうか・・・               (2021.11.13むらき)
(小説)『ムゲンのi―アイ―』上下 ・知念実希人
・双葉社
・2019

識名愛衣(しきな・あい)28歳、神経内科の女医となり、特発性嗜眠症候群(イレス)の患者3人を担当している。
マブイだとかユタだとか、医師としての知識と沖縄文化が詰め込まれた夢幻の世界。民俗学の知識を思いだしながら、知念ワールドにしばし浮遊した。
                                  (2021.12.10むらき)
負けるな、ロビー!

負けるな、ロビー!
・2008
・マイケル・モーパーゴ
・佐藤見果夢訳
・マイケル・フォアマン画
・評論社
・原著:2002イギリス、原題『COOL!』
イギリスの10歳の少年ロビーは事故に遭って意識不明、昏睡状態が続いている…
世界のいろいろな地の歴史上の事実に題材をとり、人間の移動と、少年少女の成長を描くモーパーゴにしては珍しく、病院のベッドに縛り付けられたまま、という設定。

参考:マイケル・モーパーゴ作品
・2001『よみがえれ白いライオン』クリスチャン・バーミンガム絵、佐藤見果夢、評論社
・2002『ケンスケの王国』佐藤見果夢訳、評論社
・2010『モーツアルトはおことわり』さくまゆみこ訳、マイケル・フォアマン画、岩崎書店
・2012『発電所のねむるまち』ピーター・ベイリー絵、杉田七重訳、あかね書房(原著2006、)
・2014『希望の海へ』佐藤見果夢訳、評論社
・2015『月にハミング』杉田七重訳、小学館
・2017『図書館にいたユニコーン』ゲーリー・ブライズ画、おびかゆうこ訳、徳間書店
・2018『トンネルの向こうに』杉田七重訳、小学館
・2019『フラミンゴボーイ』杉田七重訳、小学館       (2021.12.10むらき)
   モーツァルトはおことわり  発電所のねむるまち      月にハミング希望の海へ  図書館にいたユニコーン  トンネルの向こうに  フラミンゴボーイ
レストラン「ドイツ亭」
・2021
・アネッテ・ヘス
・森内薫訳
・河出書房新社
・(原著ドイツ、2018)
レストラン「ドイツ亭
【表紙カバー袖】
 フランクフルトを舞台に、1963年のアウシュヴィッツ裁判が開廷する直前から判決後までの流れを追いながら、主人公の家庭とさまざまな人間模様を交錯させて描いた小説。
 アウシュヴィッツ裁判は、ドイツの司法がドイツ人を裁いた法廷であり、ドイツ人を始めてアウシュヴィッツに向き合わせた裁判ともいわれる。300人を越える証人が召喚され、ガス室による大量虐殺や親衛隊員による拷問や虐待を詳細に語ったことで、ドイツの人々は初めて、強制収容所で何が行われていたかを知った。
 一方、「ドイツ亭」とは、主人公の女性の父親が自宅兼用で営む小さなレストラン。この平和な家庭が徐々に裁判に引き込まれ、恐ろしい運命へと大きく変ることになる。
「北海道集団帰農」  ―満蒙開拓と戦後の緊急開拓の間-

    ○2019 石井次雄 『拓北農兵隊 戦災集団疎開者が辿った苦闘の記録』  旬報社
    ○2021 鵜沢希伊子 『知られざる拓北農兵隊の記録』  高文研
    ○1973 開高健 『ロビンソンの末裔』  新潮文庫(1960『中央公論』)
    ○1983 赤城真理子「無縁故集団疎開日記」  『銃後史ノート』復刊5号(通巻8号)、JCA出版、p. 104-111
 拓北農兵隊(表紙)   拓北農兵隊の記録   ロビンソンの末裔    
銃後史ノート
戦時の疎開について、学童疎開や建物疎開を知っている人も、「罹災者無縁故集団疎開」について知る人は少ない。国策としての開拓について、満蒙開拓と戦後の緊急開拓の間に「北海道集団帰農」があったことを知る人は少ない。

 1936年閣議決定した「満州農業移民百万戸移住計画」で送り出された約27万人は敗戦時に棄民となり、国策の被害者となったが、中国侵略に加担した加害者でもあった。

 1945年11月9日閣議決定した「緊急開拓実施要領」は百万戸を国内に入植させる計画だった。「戦後開拓」農政が終了した1974年5月現在9万2000戸。

 1945年5月14日「罹災者無縁故集団疎開」15世帯は、区役所の斡旋により上野駅前の桜丘国民学校内に集合、上野駅より乗車、翌昼、福島県大沼郡高田町に着いた。案内されたアバラ屋には、夜具もムシロも、電灯も炊事道具もなかった。

 1945年5月30日政府次官会議が決定した「北海道疎開者戦力化実施要綱」は5万戸20万人を「北海道集団帰農」させるとした。空襲で焼け出された大都市(東京、横浜、大阪、名古屋)の戦災者(=罹災者・疎開者)を「拓北農兵隊」と名付けて、北海道に移住させた。7月6日から送出した「拓北農兵隊」の目的は、戦争遂行のための食糧増産であり、戦災者の救済ではなかった。東京だけで百万人にもなった戦災者が暴動を起こすこと=『革命』を恐れていた体制側が、国体護持のために戦災者を都市から排除するのが真の目的だったのではないか。発案者・黒沢酉蔵についての評価はさまざまである。

8月15日の敗戦後は「拓北農民団」と改称し、11月まで送り続けられた。

"北海道へ行けば、すぐ蒔き付けできる既墾地がもらえる、住宅も建っているし、道路もついている、主食は配給してくれるから食べることに心配はない、農具・種子はもらえる、必要な資金は貸してくれる"――空襲によって焼け出され、なお続く空襲の恐怖と飢えにおののきながら、縁故疎開先もなくてバラック生活を余儀なくされていた人々は「集団帰農者の栞」や新聞広告を見て藁をもつかむ気持ちで応募し、北海道へと旅立った。

3446戸、1万7305人が道内の137町村に入植したが、募集時の宣伝とかけ離れ夢のカケラもない苛酷な現実に、1年後には入植戸数の12.6%、約2000人が離農していた。  (むらき)


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 第832号 2021.8.12「むらき数子 情報ファイル」より
書   名 著者・編集/出版社 本体価格+税 *書評他
『ねこの小児科医ローベルト』 
・2019
・木地雅映子、五十嵐大介絵
・偕成社
 夜中2時10分、ユキの弟ユウくん(2歳11カ月)が突如激しく嘔吐、
3時腹痛・下痢。おとうさんが電話帳で小児科を探すがどの番号もつながらない、
床にたたきつけた電話帳の中で、チカチカ光った番号
  「夜間救急専門小児科医 松田ローベルト(個人) 090-××××―××××」
『どうぶつびょういん おおいそがし
 
・2011
・』シャロン・レンタ作
・まえざわ あきえ 訳、
・岩崎書店 
「ぼくの ママは、おいしゃさん。」ぼくとママはアリクイかバクか?
あらゆる動物が患者になって訪れ、院内で出産する動物病院の勤務医。
 『ねずみのおいしゃさま』
・1974
・中川正文さく
・山脇百合子え
・福音館書店
・(2016年第90刷)
日本には、医師が夜中の電話に応じてバイクで往診した時代がありましたね・・・
 『ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂』
・2012
・マーギー・プロイス
・金原瑞人訳
・集英社
1841(天保12丑)年、四国沖で暴風雨に遇い、漂流した漁船の5人。
鳥島漂着し、アメリカの捕鯨船ジョン・ハウランド号に救われた5人のうち、少年万次郎はホイットフィールド船長に息子になれと誘われて、1843年アメリカへ渡り、農場を手伝いながら学校教育を受け、1846(弘化3、午年)19歳、鯨漁船に乗る。・・・ 
『ジーンズの少年十字軍』 上下  ・2007
・テア・ベックマン
・訳西村由美、表紙絵・
・地図:ヴァウター・トウルプ
・岩波少年文庫 
【表紙カバー 上】より
 オランダの少年ドルフは、知り合いの博士が発明したタイムマシーンに乗って13世紀へ――。思いがけず彼は何千人もの子供たちのまっただなかに巻き込まれてしまう。この大集団は、羊飼いの少年ニコラースの率いる少年十字軍だった!
 『ぼくはおじいちゃんと戦争した』
・2021
・ロバート・K・スミス
・訳こだまともこ
・あすなろ書房/TD>
家は3階建て、2階の個室は産まれて以来のピーターのお気に入り。祖母が亡くなり気落ちしている祖父(母の父)を呼び寄せるにあたって、両親はピーターを3階の客用室(=物置に近い、内装など粗末)に移らせて、2階の個室を祖父の部屋にする。
 自分のものを奪われた、返せ!とピーターは祖父に宣戦布告し戦争をしかける。
 ―配偶者を喪い、仕事(大工)を失って、怪我で片足をひきずる老人、呼び寄せ同居という立場の老人に、孫からの「奪ったものを返せ」という要求は、理不尽で残酷過ぎる。祖父は好んで孫を追い出したわけではない。娘夫婦の決定なのだ。   (むらき)
『世界史を「移民」で読み解く』 ・玉木俊明
・NHK出版新書575
・2019 
「ガヴァネス」について―(引用。むらき)

【イギリス国内で起こっていたこと】 p。185-187
 産業革命をいち早く成し遂げたイギリスは、19世紀の間に農業社会から工業化社会へと変貌を遂げていた。しかし工業化し、都市化していった社会では、女性が就業できる職業は限られていた。

 その中で、「ガヴァネス」は中流階級の女性が働いてもよい(軽蔑されない)数少ない職業であった。ガヴァネスの専門家である川本静子氏によると、19世紀中頃のイギリスで、ガヴァネスと言えば、生活の糧を得るために教師として働くレデイであった

 ガヴァネスの数は、1851年の人口調査では2万1000人、1865年の人口調査では2万5000人であった。ガヴァネスの給料は決して高くはなく、ハウスキーパー程度であった。ガヴァネスは、教師としての訓練を受けてはいなかったので、子どもたちの衣類の繕いをしなければならないことも多かった。現実には、彼女たちは家庭教師兼女中だと言われても仕方がなかった。

 しかしガヴァネスが、決して軽蔑されない職業であることが、多くの女性労働者にとって大切であった。重要なのは彼女たちが社会的には曲りなりにもレデイとして位置づけられていたことであり、階級社会のイギリスでは、レデイとみなされる数少ない職業だったのだ。彼女たちの経済状況は決してよいものではなかった。むしろ、悪名高いまでに低かったという意見すらある。しかし、彼女たちはあくまでレデイであった。

 さらに1848年から1853年にかけ、女子中等教育機関が新設されると、ガヴァネスの基準は上がり、基準に満たない者は国内ではガヴァネスになるのが難しくなった。(p。187)
 だが、イギリスは世界中に植民地を持つ大帝国であった。そのため、1860年代になると、植民地であるオーストラリアやニュージーランドでガヴァネスとして働く女性たちが出てきたのだ。彼女たちはイギリス本国では、ガヴァネスになれない人々であった。
  『フィッシュ・アンド・チップスの歴史 英国の食と移民』 ・2020
・パニコス・パナイー
・訳栢木清吾
・創元社
> (p。189-)
 フィッシュ・アンド・チップスがイギリス生まれのものではあるが、その「イギリスらしさ」をめぐる現実とマーケテイングのもつれを解きほぐす必要がある。現実の点から言えば、起源はどうであれ、19世紀末以来それは基本的にイギリスのなかで、特に労働者階級のコミュニテイのあいだで食べられてきたという意味で、ずっと「イギリスらしい」ものであったことに議論の余地はないだろう。・・・」

(p。191)
 フィッシュ・アンド・チップスは、過去2世紀にわたるイギリスへの移民の影響と重要性、性質の変化を象徴するものである。   (引用、むらき)
『人類と病 国際政治から見る感染症と健康格差』
・詫摩佳代
・中公新書
・2020.4.25
【はしがき】 
「第1章 二度の世界大戦と感染症」では、二つの世界大戦において、人類はどのように感染症と闘ったのか、その経験からいかに国際的な保健協力の枠組みが確立されたかを見ていく。

 第二次世界大戦後に設立された世界保健機関(WHO)は、設立当初から国際政治と密接に関わり合っていた。ただ、WHOの活動は、国際政治の流れに受身的であったわけではなく、専門家たちを中心に、各国の関与をうまく活用しながら、地道な実績を積み上げてきた。

 「第2章 感染症の「根絶」――天然痘、ポリオ、そしてマラリア」では、WHO設立の過程を見た後、WHOの下で展開された三つの感染症対策プログラムの様子を追う。なぜ、天然痘は根絶に成功し、マラリアとポリオはまだ根絶されていないのか? その背景には、ワクチンや治療法の発見といった問題に加え、国際政治上の問題も関係している。」
『福岡 女たちの戦後』5号 特集「筑豊 女坑夫たちの戦後」
・頒価500円(送料2冊まで180円・銀行振込) ・女坑夫の聞き書きをされた井手川泰子さんの86歳の講演録「女坑夫を語り継ぐ」
・「聞き書きに」にみる女坑夫の戦後
  ―マッカーサーが食わしてくれるわけでなし―
  労基法による坑内労働禁止と炭鉱閉山による女たちの失業対策事業など
・「北部九州の近代化と遊廓の形成 明治期 唐津・満島遊廓編」
 北部九州の近代化を「観光・交通・遊廓」の三位一体から読み解きます。
 今回はその前史です。

 購読申し込みは、→  メールlinden_2012@ybb.ne.jp)または携帯SMS 09029625552宛て
『女性労働研究』第65号「コロナ禍のフリーランス 〈雇われない働き方〉の補償を求める」 

・2021.3.30 
・http://ssww.jp/?page_id=11
●コロナ禍の女性労働とフリーランスの労働基本権 竹信三恵子
1、コロナ禍のもとのフリー女性の二重苦/2、労働基本権とフリーランス女性/3、女性フリーランスと労働組織/4、新しい労働基本権の必要性
●コロナ禍でのメディア関連フリーランスの実態―子どもを持つフリーランスを中心に 杉村和美
1、フリーランスとは/2、コロナ禍の出版フリーランスへの影響/3、コロナ禍の子育て中のフリーランスへの影響/4、平常時のフリーランスの妊娠・出産、育児と仕事の両立/5、フリーランスへのセーフティネットを
●コロナ禍でのフリーランス俳優の実態 森崎めぐみ
1、国内外の俳優組合/2、ハラスメントの実態/3、セーフティネットの欠落/4、コロナ禍下のフリーランス
●生命保険業における営業職の雇用関係の形成―利害関係者の働きかけに注目して 金井郁
 1、労働基準法適用をめぐる利害関係者の働きかけ/2、労働組合法の労働者をめぐる利害関係者の働きかけ/3、生命保険営業職に対する「労務管理」の生成と展開/失業保険(雇用保険)適用をめぐる利害関係者の働きかけ
「雇われない働き方」に光をあて、コロナ禍のなかで特に浮き上がるジェンダー課題に視点を据えた特集となっています。ぜひお読みください。
『地域を変えるエッセンシャル・ワーク』ぎょうせい、【チラシより】

・山谷清志・藤井誠一郎編著
・2021年4月
◆社会にとって必要不可欠なサービス提供に従事するエッセンシャル・ワーカーが直面する状況を紹介するとともに、今後公共サービスをどのように維持していくべきかを現場からのメッセージとして自治体政策の観点で理解できます。
◆病院(看護師)・保健所(保健師)・男女共同参画センター・清掃サービス・給食現場・保育所・学童保育等の現場で働く方へのインタビューを実施!現場職員がリアルに抱える不安や課題がわかります。
◆コロナ禍で生じた課題だけでなく、コロナ禍以前から抱えていた課題についても触れています。

「目次」

第1部 エッセンシャル・ワーカーの厳しい20年
 第1章 地方行革の「効率化」問題
 第2章 これまでの地方改革
 第3章 地方公務員削減を強いた財政の理由
 第4章 現業職場の窮状と公共サービスの危機
第2部 困難なエッセンシャル・ワークの今
 第5章 看護師を追詰める新型コロナ
 第6章 保健所行革の勘違い
 第7章 男女共同参画センター相談室のコロナ禍
 第8章 清掃サービス提供体制の構築
 第9章 コロナ禍と給食業務の困難
 第10章 子育て支援現場の悪化した労働環境
 終章  ポストコロナ時代の公共サービス提供
『女も男も ?137 2021年春・夏号 私のからだは私のもの』

・労働教育センター コロナ禍のなかで、10代の妊娠相談が増えている。中学など義務教育での性教育の必要性が言われているが、性交、避妊、中絶について教えている学校はまだ少ないようだ。

本号では、予期せぬ妊娠をした場合、具体的にどのような支援が行われているのかを、学校関係者や医療関係者などにうかがった。リプロダクテイブ・ヘルス/ライツ実現のためには、学校、医療機関、国や自治体、そして私たちはどのような課題を解決しなければいかないのかを考える。

[主な内容、章のタイトルのみ紹介]
 Part1 女性の健康政策の現在(いま)
 Part2 10代の妊娠・出産・中絶
 Part3 セクシュアリテイ教育の課題   (チラシより、2021.8.3)
池亀卯女『子育ての輪―育児不安をこえる』

・ユック社
・1987年
街の開業小児科医である著者が次のように書いたのは1987年、

  「 <母乳のすすめ>は、最近エスカレートして、母親の生活態度や母親の食べ物にまで及んでいる。たとえば、おっぱいを飲ませるときは雑念を払い、テレビなんかもちろん見ず、赤ちゃんの目をじっと見つめて、やさしくほほえんでいなければならない。母親の食べるものが悪いと「悪いおっぱい」になり、赤ちゃんがおっぱいを吐いたり、泣いていやがったりするとまで言われる。」

 「母乳でなければよい子は育たない、母乳によって母と子の絆ができる、悪い母乳は赤ちゃんのからだに悪いなどと、断定的な言い方で母親をおどかすのはやめよう。ゆったりできる条件を作って、母乳が出る人は母乳で育てればよい。出ない人は自分を責めることなく、ミルクを足せばよい。仕事をしなければならないのなら、保育園に預けたり、父親や祖母にもミルクを飲ませてもらえばよい。母乳を飲ませること、あるいは飲ませないことに必要以上の意味をつけ加えるのはよそう。」

 それから33年、ひと世代、母乳主義はさらにエスカレートして「完全母乳」「完母(かんぼ)」という言葉が、生殖年代の女性を追詰めているようだ。

 母乳で育っても、ミルクで育っても、33年前の子どもは、すでに中年になって社会を担っている。母乳でなければ育たないのなら、母親がいなかった子は、存在も成長もあり得ないということになる。そんなことはない。  (むらき)
ブックレット『地球平和憲章日本発モデル案』 ・花伝社 ・1100円<税込み> ワーキンググループ5人(堀尾輝久・笹本潤・目良誠二郎・児玉洋介・佐々木亮)による解説・問題提起
9条地球憲章の会(代表  堀尾輝久、事務局長 目良誠二郎)9.globalpeace@gmail.com
(2021/05/11 (火) 0:02 9条地球憲章の会) 
 『日本国憲法のお誕生―その受容の社会史』 ・2020.11.3
・江橋崇、有斐閣
(p。87、引用、むらき)
【3 皇居内外で食い違う天皇のイメージ】

 日本国憲法は皇居の外では国民主権原理で政治的に無力な象徴天皇制であるが、皇居の中では立憲君主制原理で天皇は君主でありつづけた。だから、皇居の堀の内部で行なわれていることが、いかに天皇制の神話に基づいていようと、あるいは天皇は大日本帝国憲法当時と同じようにふるまっていても、「日本国憲法はお堀の外では国民主権、お堀の中では君主主権」なのであるから、それをいくら違憲だと批判しても豆腐にかすがい、糠に釘で、ワザありにはならないし、まして一本決まったとはならなかった。佐藤功の残した言葉は日本国憲法の運用におけるこの奇妙なダブル・イメージの存続を示唆している。
『民衆暴力―一揆・暴動・虐殺の日本近代』 ・藤野裕子
・2020
・中公新書
・中央公論新社
【はしがき】

 本書を通読すると、権力に対する民衆の暴力と、被差別者に向けた民衆の暴力とが、それほど簡単に切り分けられないことがわかるだろう。誰が/誰に向けてふるったかによって、暴力の意味合いが異なってくるのはもちろんだが、両者を「民衆暴力」として同時に扱うことで、従来とは異なる領域に思考をめぐらせることができるはずだ。」

「第1章・第2章では、明治初年に起きた新政反対一揆と、自由民権運動期に起きた秩父事件を取り上げる。この二つの事件を題材に、近代国家の樹立にともなって、どのような民衆暴力が起こり、それがどのように変化したのかを確認する。

 第3章から第5章は、明治後期から大正期にかけて起きた民衆暴力を扱う。一つは、日露戦争の終結に際して巻き起こった日比谷焼き討ち事件であり、もう一つは、関東大震災時の朝鮮人虐殺である。

 前者については、対外戦争の経験や近代都市での生活をとおして、それまでとは異なる都市暴動という独特の民衆暴力の形態が生まれたことを確認したい。後者に関しては、植民地支配と関わってどのような民衆暴力が生まれたのか、また軍隊や警察と言った国家の暴力装置が民衆暴力を正当化した際にどのような事態が起きたのかを明らかにしたい。」

「個々の事実関係はこれまでの研究と重なるところも多いが、民衆暴力という観点だからこそ可能になった本書の叙述によって、現在の日本社会を見直す手がかりが得られれば幸いである。」
『戦争と軍隊の政治社会史』 ・大月書店 + 軍事史・政治史研究の第一人者である吉田裕氏の退職(2020年)記念論集『戦争と軍隊の政治社会史』が発売されました。
3部構成で、

第1部 身体と記憶の兵士論
第2部 軍隊と戦争をめぐる政治文化の諸相
第3部 天皇制の政治社会史
終章  戦後歴史学と軍事史研究(吉田裕)

となっています。

吉田裕さんから教えを受けた13人の元ゼミ生が論文を寄せました。
平井も第1部3章で「日本兵たちの『慰安所』―回想録に見る現場」という拙論を書きました。ご興味のある方はぜひご覧ください。(2021.7.22平井和子)
『ふたたびの「戦前」 軍隊体験者の反省とこれから』 ・石田雄
・青灯社
・2015.3
2021年6月2日、「軍隊経験を踏まえ、平和への思いを語り続けた」東大名誉教授石田雄(いしだ・たけし)先生が死去されました。先生は戦争法成立の際には、朝日新聞『声』欄に「もう一度、憲法9条の意味を考えてみて下さい」と投稿しています。

「第1章 愛国少年へのゆるやかな歩み
「第2章 戦争に向かう空気の危うさ―今日の視点から見る軍国化の要因
「第3章 軍国青年の誕生と軍隊体験
「第4章 戦後の「短い春」から集団的自衛権容認まで―戦後研究者としての反省
「第5章 また戦争に向かうのか―戦前と今日の状況の共通点と違う点
 「結章  過去から学ぶ教訓と将来への展望

以上、石田先生が92歳、私共にくださった遺著の内容でございます。(内田眞)
『なぜ戦争体験を継承するのか―ポスト体験時代の歴史実践』 ・蘭信三・小倉康嗣・今野日出晴編
・みずき書林
・2021
「ポスト戦争体験時代」へ漕ぎ出す 本書は、その時代の到来を怖れることはないと示してくれる  平井和子

 冒頭、ごく個人的な「体験」から入ることをお許し願いたい。敗戦10年後の広島に生まれたわたしは、小学校低学年のとき父の自転車に乗せられて、原爆資料館(広島平和記念資料館)を訪れ、その後食事もできないほどの衝撃を受けた。戦争や核兵器の知識もないまま地獄絵図のような事態を、幼い頭では受けとめかねてこれを封印することで乗り切ろうとした。後に近現代史をやるようになって、「逃げたヒロシマ」に再会するまで20年を要した。この非体験世代のわたしの衝撃談に対して、被爆体験者・加納実紀代から、「被爆再現人形を見たからって死ぬことはない。ちゃんと直視しなさいよ」と厳しい批判を受けた(平井「わたしにとってのヒロシマ―<継承し直し>のために」『戦争と性』第27号、2008年)。

 したがって第1章の、幼児期に原爆資料館に連れて行かれ、以後40年間「灯を消して眠れなくなった」という小倉康嗣の、被爆者の証言を地元の高校生が絵にする「次世代と描く原爆の絵」プロジェクトに引き込まれて読み進んだ。(下略)    (続きは→『図書新聞』2021.8.14)
『国民義勇戦闘隊と学徒隊―隠蔽された「一億総特攻」―』 ・斉藤利彦
・朝日新聞出版
・2021 

政府が戦争末期に設置を進めていた「国民義勇戦闘隊」の資料は、敗戦後すぐに軍部から焼却命令が出され、全国の市町村役場で焼却されて、隠蔽された。本書は、僅かに残存した資料を探索し続けてきた著者による労作である。

 沖縄戦中の1945年6月8日に天皇臨席の「最高戦争指導会議」が開かれ、本土決戦の方針が決定された。そして6月22日に公布された「義勇兵役法」により、男子満15歳から60歳、女子満17歳から40歳までの、すべての帝国臣民が「兵役」の対象となった。

「本土決戦」「一億総特攻」は、単なる標語だったのではなく、現実に全国で準備されていた。女子にも兵役を課し、「敵前逃亡は死刑」などの軍規を適用した。

 本土決戦の前哨戦として子どもたちを兵士として闘わせた『沖縄戦の子どもたち』(川満彰、吉川弘文館、2021.6)とあわせて読むことで、戦争国家としての日本がどんな国であったのかがより理解できる。  (永島昇)
『さよなら!一強政治-:徹底ルポ 小選挙区制の日本と比例代表制のノルウェー』

・三井マリ子 大阪市中央区にある女性だけで運営される女性共同法律事務所の理論派弁護士宮地光子さんによる「さよなら!一強政治」への書評です。  https://frihet.exblog.jp/32246217/ 
  *   *   *   *   *   *   *
8月6日(金)、ノルウェー大使公邸にて、ノルウェー国王功労勲章叙勲の式典がありました。ハーラル国王に代って、訪日中のアビド・ラジャ文化・平等大臣から三井マリ子さんに、勲章と賞状が手渡されました。
『九電本店前に脱原発テントを張って10年目』
キリスト者・青柳行信 人権擁護と反原発の闘い


・柘植書房新社
・青柳行信・語り
・音成龍司・構成
・栗山次郎・聞き書き
【目次の抜粋】
 はじめに
 第一章 脱原発テント「原発とめよう!九電本店前ひろば」
 第二章 神との出会い
 第三章 日本社会の矛盾を知り、現実を社会に訴える
 第四章 「じゃぱゆきさん」の人権侵害に抗して
 第五章 日本の過去との出会い
 第六章 国家権力と対峙する人権擁護の闘い
 第七章 拘置所の生活と取り調べ、そして裁判
 第八章 国家権力に追われた人々との出会いと外国への支援活動
 終 章 人権侵害との闘い…フィリピンとイラク、ペルーと日本、さらに福島
 あとがき
『リニア中央新幹線をめぐって~原発事故とコロナ・パンデミックから見直す』
・山本義隆
・みすず書房
・2021.4
オリンピック強行開催に対し、怒りはおさまりませんが、救い?は多くの人が反対をいろんな形で表明し、その方たちと連帯感を持つことができることです。
 ところが、もっと巨大なプロジェクトが進み、それに対して多くの人は「一度は乗ってみたい」とか言って、ことの重大さを知らないようなのが恐ろしいです。
 それはリニア中央新幹線です。
 一昨日から朝日新聞の夕刊の「現場へ!」で取り上げられています。
 このリニア中央新幹線の問題の重大さを分かりやすくまとめた本を読みました。
 山本義隆著「リニア中央新幹線をめぐって~原発事故とコロナ・パンデミックから見直す」(みすず書房2021.4)です。
 帯には「なぜこの国では、不合理な巨大プロジェクトが暴走してしまうのか?その根本を掘り下げ、 福島原発事故後/コロナ禍以後の社会のあるべき形を見据えた、直球の提言」とあります。
 まさにそのとおりです。 
ご一読をお薦めします。そして現場の住民に方々を応援できたらと思います。
 ではお元気で!  ―東京のテルさん


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第820号 2021.4.8.「むらき数子 情報ファイル」より
書   名 著者・編集/出版社 本体価格+税 *書評他
東日本大震災10年 『災害女性学をつくる ・浅野富美枝・天童睦子編著
・生活思想社
・2012年
・2310円 みやぎの女性支援を記録する会編著『女たちが動く―東日本大震災と男女共同参画視点の支援』
みやぎ3・11
「人間の復興」を担う女性たち―戦後史に探る力の源泉』
・浅野富美枝
・生活思想社
・2016年
・2420円
災害からの命の守り方?私が避難できたわけ? ・森松明希子
・文芸社
【帯より】
この10年の間、国内外でも大きな災害・事故・事件が起こっています。福島第一原発の事故だけではありません。しかし、原子力災害は人類の歴史上、とても大きな災害であり人災です。放射性物質を広範囲に撒き散らす「公害」の最たるものだと私は考えます。発災当時住んでいた「福島」という地で、原子力災害を目の当たりに体験した私が「今できること」は何だろうかと、10年に及ぶ避難生活の中、ずっと考え続けてきました。】
http://sandori2014.blog.fc2.com/blog-entry-2403.html
日本の植民地政策とわが家の歴史 ・広瀬 隆
・2020年7月20日刊
・八月書館
談論風発 琉球独立を考える?歴史・教育・法・アイデンティティ? ・前川喜平、松島泰勝編著
・明石書店
・2020.8.30
沖縄のことを考えるとき、情緒的・観念的ではないかという自省がいつもありましたが、開かれた対談の中で、自分の問題ともつながることを確認し、歩みを少し具体的にできるような気がしました。
 アイヌの問題、在日コリアンはじめ、外国人労働者の問題などもつながっています。
目次を添付します。 (東京のテル)
  •   まえがき―「居酒屋独立論」から「科学的独立論」へ    松島泰勝
  •  琉球独立論にいたる道―沖縄・日本・教育     前川喜平・松島泰勝
  •  歴史・法・植民地責任―ニューカレドニアから琉球を考える
                         佐藤幸男・前川喜平・松島泰勝
  •  近代の学問が生んだ差別―アイヌ・琉球の遺骨訴訟問題と国際法
                         上村英明・前川喜平・松島泰勝
  •  独立琉球共和国の憲法問題―国籍・公用語をめぐって
                         遠藤正敬・前川喜平・松島泰勝
  • 資料 琉球共和社会憲法私(試)案 (川淵信一) 
世界滅亡マシン 核戦争計画者の告白 ・ダニエル・エルズバーグ
・』宮前ゆかり・荒井雅子訳(TUP(平和をめざす翻訳家たち)メンバー)
・岩波書店
・2020年06月27日
世界で最も有名な内部告発者として尊敬を集めるエルズバーグは、先制核攻撃を含む米国核戦争計画の重要な草案者の一人でもあった。一触即発で第三次大戦になりかねなかった事件など知られざる歴史的事実も含め、内に秘めてきた米国核政策の内実を明らかにした渾身の書き下ろし。
 核の危機に対するリマインダーとして必読の書。
(山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)【TMM:No4113】地震と原発事故情報 2021.1.25より)
わたしの名前 フェミニズム 植民主義 という視点 ・高雄きくえ
・feminism 18,2020.8.3 ひろしま女性学研究所発行
【はじめに】日本は敗戦後GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の民主化指導のもと、家制度は廃止したが「夫婦同氏」規定を設け、「夫、妻の氏どちらでもいい」とした。この規定は一見ジェンダー中立的に見えるが、実態はどうなっているのだろうか。
 2015年内閣府調査をみると驚くことに、結婚した96%の夫婦が夫の姓にしていることがわかる。・・・」
「本書は、現在係争中の「選択的夫婦別姓裁判」を注視しながらも、「なぜ96%の妻が夫の姓を称するのか」に焦点をあてその背景を探る。」
山椒魚戦争 ・カレル・チャペック
・訳:栗栖継
・早川書房
・1998
真珠採取場を求めた船長・ヴァン・トフはタナ・マサ島で山椒魚が真珠採取に適しているのを知る。山椒魚に、サメからの防禦・反撃法を教え、ナイフを与え、他の繁殖適地をみつけては、移住させる。船長の山椒魚に対する《愛情》がもたらしたものは・・・
ナチス・ドイツがドイツ民族の優秀を掲げて、世界征服に向かいつつある中で、自国チェコスロヴァキアが風前の灯になった日々の中でチャペックが描いた山椒魚と人間の関わり。  (むらき数子)                      
白い病気/マクロプロスの秘密 ・カレル・チャペック
・』栗栖茜訳
・海山社
・2020.8.18
『白い病気』は、1937年の作品。3年前にヨーロッパ初の患者発見以来、これまでに500万人が死亡、現在の罹患者1200万人というペストでもレプラでもない、白死病。パンデミックと世界支配を狙う独裁者。迫りくる「戦争」に、民衆はどう生きるか?(むらき数子)(むらき数子)
コロナ時代を生き抜くヒントー本物を求めて? ・児玉勇二
・いなほ書房
<チラシより>
 新型コロナウイルスが今、日本はもとより世界中に拡がって収まる気配がありません。
特に日本では、初期対応の遅れやチグハグな対応から、問題性が深刻になっています。
本書は、日本における新型コロナの発生からの政府の対応や世界の政府の向き合い方を検証しながら、我々の真の生き残り解決のため、人間の尊厳を守り、新たな人間の連帯と共生と平和の道を考えるために発刊した次第です。 
写真と証言で伝える世界のヒバクシャ ・豊矧f邯
・すいれん舎
第一巻 マーシャル諸島住民と日本マグロ漁船乗組員
第二巻 アメリカ被ばく元兵士と被ばく住民
救援川柳句集 ・乱鬼龍編
・救援連絡センター
・2020.10.10、
・500円 1969年に設立された救援連絡センターの機関紙『救援』の紙上に、乱鬼龍さんが選者となって2009年3月から連載してきた「救援川柳」。連載10年、また救援連絡センター50年の節目として一冊にまとめたものです。
問合せ・申込は、「救援連絡センター 東京都港区新橋2?8?16石田ビル5f、電話03?3591-1301 kyuen2013@gmail.com  
2021.3.20緊急オンライン集会
官製ワーキングプアの女性たち コロナ後のリアル
関連資料 
官製ワーキングプアの女性たち あなたを支える人たちのリアル
(竹信三恵子・戒能民江・瀬山紀子編 2020、岩波書店)
(近刊)『非正規公務員のリアル?欺瞞の会計年度任用職員制度
     (上林陽治著 日本評論社、2021年2月)
知っていますか? あなたのそばの非正規公務員
(雑誌『女も男も』2019年 春・夏号 No.133、労働教育センター)
>大娘たちの尊厳を守るために―西岡力氏らの
「中国人慰安婦問題に関する基礎調査」を批判する
・山西省・明らかにする会 ――山西省・明らかにする会(山西省における日本軍性暴力の実態を明らかにし、
大娘たちと共に歩む会)――
なぜ戦争体験を継承するのか ポスト体験時代の歴史実践 ・蘭信三・小倉康嗣・今野日出晴編
・みずき書林
・2021.2.20
<女の本屋 > 蘭信三・小倉康嗣・今野日出晴編『なぜ戦争体験を継承するのか ポスト体験時代の歴史実践』  戦争体験の<忘却>と<想起>のはざまで、未来への根源的な問いに迫る労作  ??やぎみね | ウィメンズアクションネットワーク Women's Action Network (wan.or.jp)  
女の子はどう生きるか ・野千鶴子
・岩波書店
女の子たちの「翼」が折られることのないように――。そんな願いを込めて、社会学者の上野千鶴子さんが10代に向けた著書「女の子はどう生きるか」(岩波書店)を出しました。10代の女の子たちは、メッセージをどのように受け止めたのでしょうか。(続きは→ セレブな主婦を夢見るのはダメ?上野千鶴子さんと考えた:朝日新聞デジタル (asahi.com)  2021年3月8日 8時00分)
「原発亡国論」3・11と東京電力と私 ・木村俊雄
・2021年3月
・駒草出版
 もう一度、思い出してほしい。
原発事故の一報を初めて耳にしたときに、あなたが感じた恐怖を。
福島第一原子力発電所の事故があと一歩、悪いほうへ転がっていたら…
その被害はコロナ禍どころではなく、この国は滅んでいた。
 しかし、たった10年しか経っていないのに、私たち日本人は自分たちが危うく滅びかけたことさえ忘れてしまったのだ。
COVID?19という未知のウイルスの襲来によって、今も世界中で毎日多くの命が奪われ、私たちの日常生活は大きく様変わりした。
それなのに、わたしはこんなふうに考えてしまうのだ。
 『どうせ、みんなすぐに忘れるさ…』
なぜなら、たった10年しか経過していないにも関わらず、私たち日本人は自分たちが危うく滅びかけたあの事故のことを忘れてしまったのだから。
             (以上の文章は、帯と表紙裏より転載)

目次紹介
序 章 「原発再稼働」という過ちから」立ち戻るために…
    いま私たち日本人のセンスが問われている
第1章 「3・11」を経験しても「自分さえよければいい」日本人
第2章 「東京電力」で津波を想定することはタブーだった
第3章 元原発エンジニアである「私」が反原発の旗を振る理由
第4章 「私」の反原発興国論とその実践
      (2021.4.3たんぽぽ舎【TMM:No4165】地震と原発事故情報 より転載)
オリピックという名の虚構 政治・教育・ジェンダーの視点から ・ヘレン・ジェファーソン・レンスキー
・井谷惠子、井谷聡子監訳
・晃洋書房
・2021.3
☆目次
 第1章 序文と背景
 第2章 オリンピックへの抵抗
 第3章 スポーツと政治を混合しない
 第4章 オリンピック産業のインパクト
 第5章 改革――「名声を取り戻す」
 第6章 アスリート、政治、抗議
 第7章 スポーツを通じた若者の教育
 第8章 アスリートの権利、アスリートの人生
 第9章 ジェンダー方針――課題と対応
 第10章 オリンピック――「福祉プログラムではなくベンチャービジネス」
詳細 http://www.koyoshobo.co.jp/book/b561108.html
☆刊行トークイベント
 日時:2021年4月17日(土)開場18:30/開演19:00
 会場:Readin’Writin‘BOOKSTOR(東京メトロ銀座線田原町徒歩2分)
 参加費:1000円(会場、オンラインとも)
 詳細は、 https://readinwritin210417.peatix.com/view


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 第810号 2021.1.15.「むらき数子 情報ファイル」より
書   名 著者・編集/出版社 本体価格+税 *書評他
炎上CMからよみとくジェンダー論 ・瀬地山角
・光文社新書
・2020.5
奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態 ・巣内尚子
・花伝社
・2019年
コロナの時代の僕ら ・パオロ・ジョルダーノ著
・飯田亮介訳
・早川書房
・2020年
人類と病 ・託摩佳代
・中公新書
・2020年
マスコミ・セクハラ白書 ・メディアで働く女性ネットワーク編著
・文藝春秋
・2020.2.13 
東京都三多摩郡における梵鐘の供出と帰還 ・古橋研一 戦時中、武器屋弾丸の原料にするための金属類回収(供出)を巡り、調布市の郷土史家、古橋研一さん(73)が多摩地域の寺の釣り鐘(梵鐘)などがたどった運命を4年かけて調べ、『東京都三多摩郡における梵鐘の供出と帰還』にまとめた。金属供出の全般にも触れた労作だ。【佐藤浩】     (【毎日新聞】2020年9月4日「戦後75年 釣り鐘の運命一冊に」より)
家事労働の国際社会学 ・伊藤るり編著
人文書院
・2020年
【内容】ケアをめぐる越境的連鎖、グローバル・ケア・チェーンの考察には、移民政策およびローカルな家事労働者の処遇、社会のジェンダー観、当事者による組織化の歴史といった諸条件の検討が不可欠だ。ILOが有償家事労働を「労働」として認めるに至った経緯を把握し、日本の進路を探るための先端的研究書。(人文書院ホームページより)
安保法制違憲訴訟 私たちは戦争を許さない 安保法制違憲訴訟の会
・波書店
・2017年
「一見して明白な憲法違反」を黙認するわが国司法の崩壊を阻止する
 ・まえがき 寺井一弘・伊藤真
 ・第1章 安保法制 いま何が起きているのか
 ・第2章 戦争体験と平和への祈り
 ・第3章 脅かされる平和と市民生活
 ・第4章 私たちは訴え続ける
 ・解説  安保法制違憲訴訟と原告らの置かれた立場について法的な視点から青井美帆
 ・あとがき 杉浦ひとみ
彼女たちの部屋 ・レティシア・コロンバニ 著
・齋藤可津子 訳
・早川書房
・2020年
現代のパリと100年前のパリを往復しながら物語は進む。舞台は救世軍が設立した女性会館。
エリートとして生きて来た弁護士ソレーヌが業務に燃え尽き、プライベートもつまづいたときに出会った、住まいを追われた女性たちの人生。   (むらき)
『ふぇみん』No,3269
【特集 ALS女性嘱託殺人事件が問うもの】

・ALS当事者として 生きる喜びを求めて  イトー・ターリ 
・「あんな状態になってまで生きていたくない」ですか  松波めぐみ
・同じ状況を生きる仲間に助けを求めてほしかった  安積遊歩
・PDF販売もしています。https://femin1946.stores.jp/items/5fae1d758a457207fda53f4e
富山市議はなぜ14人も辞めたのか 政務活動費の闇を追う ・チューリップテレビ取材班
岩波書店
・2017年
・「14人が辞職した富山市議会:地方メディア記者たちの闘い」@ニッポンドットコム  2017.12.28  https://www.nippon.com/ja/currents/d00369/
映画「はりぼて」公式サイト
JR上野駅公園口 ・柳美里
・河出書房新社
・2014
チラチラ読んだ。難しい 時間があちこち移るから でもホームレスの話だ   いくら働いてもなかなか金を稼げない話 それが中心だということは分かった
 原発ができる前の福島県の浜通りのつらさを、少しわかった。
いや、すごく大変。仕事がない。 すぐダメになる。やめさせられる。
 北海道の海で、昆布を引っかけて採る。東京に来て、土方の仕事をする。 帰るとこをなくし、東京にいて、ホームレスになる。
そのへんはわかった。方言もわかった。私の先祖も浜通りから東京に出てきたので。東京に出てきた人たちの必死さが、わかった。年を取ってまわりにいる福島浜通りの人たち。  (そめきち)
サンチェスの子供たち
・オスカー・ルイス
・柴田稔彦・行方昭夫訳
・みすず書房
・1969
 メキシコ・シテイ中央部のカサ・グランデ共同住宅。メキシコ32州中、24州出身者が集まり、カサ・グランデ内で血縁・結婚関係を重ねて暮らしている。
 「Culture of poverty 貧しさの文化」という「生活様式」があること、「非常に貧しい人々と非常に裕福な人びとの生活はある面では著しい類似性がある」ことに気づかせてくれた本。      (むらき)
ラ・ビーダ ・オスカー・ルイス
・行方昭夫・上島建吉訳
・みすず書房
・1970
動きだした時計 ベトナム残留日本兵とその家族 ・小松みゆき
・解説:白石昌也、古田元夫、坪井善明、栗木誠一
・発行:めこん
・2020年
945年8月15日、太平洋戦争が日本の敗戦で終結し、9月2日ベトナム民主共和国(北ベトナム)が独立宣言をした。ベトナムにいた日本兵と民間人の多くが帰国した中で、600人以上の男性がベトナムに残留して、「新しいベトナム人」「(グオイ・ベトナム・モイ)と呼ばれ、家族を持った。
 フランスからの独立戦争、アメリカとのベトナム戦争、中国との関係の変化など、ベトナムの国際関係の変動の中で、残留した日本人は帰国し、ベトナムの家族との連絡が困難な長い長い時間が続いた。
 そもそも、なぜ日本軍がベトナムに駐屯していたのか?    (むらき)
韓国社会の現在 超少子化、貧困・孤立化、デジタル化 ・春木育美
・中央新書
・2020
韓国の出生率は世界最低水準にあり、少子高齢化は日本だけの特殊な問題ではないことを知る。
 1997年のアジア通貨危機による経済破綻以後、強力に進められたデジタル化。住民登録番号を通じて、個人が国家に丸抱えされる暮らしに驚き、菅政権が進めようとしている日本社会の今後を考えさせられる。              (むらき)
移民と日本社会 データで読み解く実態と将来像 ・永吉希久子
・中公新書
・2020.2.25  
著者によれば「移民とは「生まれた国から一時的なものも含め、他の国に移り住んだ人」を指す。このような意味で本書も移民という語を用いる。」
 コロナ下で、国境を越える移動が世界的に厳しく制限されている。同時に、日本国内では、「東京一極集中×地方消滅」への処方箋として「移住」が多くの自治体で取り組まれ、コロナ下でテレワーク可能な少数者が東京脱出する「移住」がもてはやされている。
 人が育った風土・人間関係のある土地から離れて「移住」するとはどういうことか?             (むらき)
雪の花 ・吉村昭
・新潮文庫
・1988
 1837年(天保8年)、前年の冷夏と大暴風雨による大飢饉に加えて、天然痘が流行した。
 1850年(嘉永2年)、医師笠原良策は、京都から福井へ種痘をもたらす。新しい知識・事物が受け入れられるには想像を絶する障害があった。  (むらき)
ヤンキーと地元 ?解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち? ・打越正行
・筑摩書房
・2019.3
社会学を専攻する大学院生・打越は、参与観察やインタビューなどによる質的調査法を自らの方法として、2008?2014年、沖縄の暴走族の行動・考え・環境を調査した。自らパシリとなり、バイクに乗り、一緒に飲み、解体作業に従事する中で、話を聞かせてもらえるようになる。
 沖縄について知っていたのはほんの僅かだった、と気づかせてくれた本。    (むらき)  
アリババの猫がきいている ・新藤悦子
・佐竹美保絵
・ポプラ社
・2020年
【児童文学】東京で一人暮らしをしているイラン出身の言語学者・アリババ。イラン人の家で出会ったペルシャ猫の子猫に「僕を連れてって」と言われて連れ帰ってしまった。「シャイフ」と名付けた子猫は、イランのバザールで良い客を連れてくると言われている長老族の猫だった。 
 アリババが急に1週間海外出張することになり、シャイフを民芸品店<ひらけごま>に預けることにした。<ひらけごま>に世界中から集まった民芸品は、それぞれの物語を背負っていた。                    (むらき)
イスタンブルで猫さがし ・新藤悦子
・丹地陽子絵
・ポプラ社
・2015年
【児童文学】トルコ、イスタンブルの日本人学校に転入した愛。アジアとヨーロッパ、二つの世界が見える街で、全身真っ白で両目の色が異なるワン猫をさがしながら、愛が見つけたものは……?                (むらき)
ぼくは本を読んでいる。 ・ひこ・田中
・講談社
・2019年
【児童文学】マンションで暮らす小学校5年生の男児ルカ。共働き家庭の一人っ子が、学童保育を卒業して放課後を一人で過ごすようになったとき、両親の書架の最上段に紙のカバーに包まれた文庫本5冊をみつけて、読み始める。
 主人公と同じような環境で育つ子が、主人公のように、同級生の中に、話のできる相手を見つけられるといいな、と思いながら読みました。

 私は小学校5年6年、そのあと、いったいどんな本を読んだのだろう???
 『あしながおじさん』『小公女』『赤毛のアン』…遠い異国のおとぎ話だと思ったけれど、私の人生に影響を遺していたような気がする。 (むらき)       
無敗の男 中村喜四郎 全告白 ・常井健一
・文芸春秋
・2019
 中村喜四郎、1949年生まれ。父親の名を「襲名」して選挙に臨み、衆議院議員に当選し続ける。将来の総理大臣候補と目されていた1994年ゼネコン汚職で逮捕され、裁判闘争中も当選し続け、実刑服役・失職を経て、2017年の総選挙で14期目までさらに当選し続けている。無敗である。
 喜四郎を当選させ続けているのは、卓越した選挙戦術なのか、組織なのか?支持者とは? 
 著者・常井は、中村の地元の風景として、嶽本野ばらの『下妻物語』の舞台をあげ、トランプを生んだアメリカのラストベルトをあげて次のように記す。
 “中村の地元もアメリカのラストベルトと同様、貧困地帯ではない。職場さえ選ばなければそこそこの暮しは成り立つ。しかし、現状への不満が渦巻き、将来の暮しに漠然とした不安を抱える中流家庭が圧倒的多数を占める地域でもある。住民たちは、魅力度ランキング最下位の茨城県にあって、「そんな茨城からも忘れられた土地」だと自嘲する。”
 中村の地元=衆議院・茨城県第7区(古河市、結城市、下妻市(旧・結城郡千代川村域)、常総市、坂東市、結城郡(八千代町)、猿島郡(五霞町、境町)を多少は知っているつもりの私は、そこがラストベルトと呼ばれることに戸惑いを覚える。
 地元に住む有権者に、この本をどう読むか聞いてみたい。     (むらき)
「ヘーシよけ」と「自宅出産」―岡山県瀬戸内市邑久町裳掛の産育

『昔風と当世風―岡山県瀬戸内市邑久町裳掛地区合同調査特集―』第105号
・むらき数子
・2020年12月15日
・古々路の会
 ヘーシよけ」とは、岡山県の瀬戸内海沿岸部で聞いた安産祈願の習俗です。
願への関心には、個人差だけでなく、性差が大きいことに今頃気づいています。悪阻以後命がけで出産に臨み、子どもに障害があった場合には責められた女性の真剣な祈願に対して、男性は夫であっても傍観者なのですね。
「自宅出産」は、瀬戸内市で2016年に、自宅出産した女性の例を紹介しました。
2016年の出生数は、日本全国で976,978人、うち自宅出産は1,168人=0.1%です。
パパのカノジョは ・ジャニス・レヴィ作
・クリス・モンロー絵
・もん訳
・岩崎書店
・2002年
  「パパのあたらしいカノジョは かわってる。すっごくカッコわるいんだ。」
「スイートポテトはかわってる。すっごくカッコわるいんだ。なのに、いままでのカノジョたちより いちばん 長つづきしてる・・・。」
 親の離死別・恋愛・再婚によって、ステップファミリーという環境で生きざるを得ない子どもは、国が違っても、たくさんいます・・・           (むらき)
コピーボーイ ・ヴィンス・ヴォーター
・原田勝訳
・岩波書店
・2020.3 
 前作(『ペーパーボーイ』ヴィンス・ヴォーター、原田勝訳、岩波書店、2016)では11歳だった吃音の一人っ子・ヴィクター。
17歳となり、大学入学前の夏、新聞社のアルバイト・コピーボーイとして早朝4時に出勤する。
 アメリカのコピーボーイとは、コンピュータ以前の、編集業務の下働き。タイプ掃除、インク補充、切り抜き整理etc.雑用係、記者への入口となった。
日本の新聞社では、今も学生アルバイトを募集している。
 ヴィクターは、生前のスピロさんとした約束「遺灰を、ミシシッピ川の河口に撒く」を果すため、両親は反対したが家出して、ミシシッピ川の河口をめざす。
どこが河口か、人によって答えが違う…               (むらき)



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 第798号 2020.9.1.「むらき数子 情報ファイル」より
書   名 著者・編集/出版社 本体価格+税 *書評他
ぼくは日本兵だった
I Was a Soldier of the Emperor
・J.B.ハリス
・後藤新樹訳
・旺文社
・1986.8.1
著者のあとがきに―
 「この本は、戸籍上の日本人として、いやもおうもなく皇軍の一員に加えられ、中国大陸の一角で四年にわたる苛酷な日々を強いられた一兵士の記録であるが、ぼくにとっての軍隊生活は、ことばの問題も含めていわばカルチャー・ショックの連続であったといっていい。
 日本の軍隊が持っていた不合理で残酷な体質については、戦争そのものの愚劣さとともにすでに多くの人が語り、すぐれたドキュメントが残されている。この本になんらかの意義があるとすれば、形の上では”日本人平柳秀夫”でありながら、容貌はもちろん、あくまでもイギリス人の心を持ちつづけようとしたJ.B.ハリスの、struggle of mind(精神の葛藤)を書いたことにあると思っている。」
とあります。
 イギリス人の父と日本人の母の一人っ子として生れた著者は、横浜で英米の教育を受けて育ち英字新聞の記者となっていました。父の死後、母と共に日本国籍になったことで、日本人として徴兵されました。
 日本の学校や青年団に無縁で育った著者が、徴兵検査をはじめとする当時の日本人の常識から”自由”であり、漢語だらけの軍隊生活にとまどいローマ字で書いて丸暗記するという様子は、戦後75年の現在に生きる日本人の大半が帝国軍隊や戦争について知らないのと重なって見えます。昨今のドラマに、現代の日本人がタイムスリップした戦争中の暮らし・ふるまいにとまどうという設定がありますが、J.B.ハリスさんは同時代にあって、異文化にスリップしたのです。     (2020.8.13む
マスクと日本人 ・堀井光俊著
・秀明出版会
・2012.122012.12
著者は、マスクの効用について日本語で書かれた学術論文を検索し、マスクの社会史をたどり、【第六章 2000年以降も社会的に浸透】に次のように記す。

【小括】(p。203)
 本章では2000(平成12)年以降について俯瞰してきたが、以前よりもマスク着用という習慣の社会的浸透の度合いが増したことは確かだろう。それは公的な新型インフルエンザ対策の文脈に取り入れられ、その正統性を確保したかにも映る。00年代の宣伝広告にも象徴されるように、インフルエンザの感染を自己予防することによる共同体の防衛という道徳的意味を有しているようだ。
 罹患者にはマスクで感染拡大を防止する社会責任があり、健康者は予防して経済貢献できる身体を保つとともに、ウイルスを家庭や会社などの共同体に持ち込まない義務が語られた。そのようなマスク着用の道徳的意味が社会に浸透したとき、新型インフルエンザの世界的流行が起こった。マスクは、そのシンボルとしての機能を果たしたのである。」

 新型コロナウイルスの流行にあって、「新しい生活様式」としてマスク着用が推奨される2020年現在を記述しているかと思ってしまう本である。 (2020.8.18むらき)
大量廃棄社会
アパレルとコンビニの不都合な真実
・仲村和代・藤田さつき著
・国谷祐子解説
・光文社新書
・2019.4.30
質が良くて安い服が選び放題、不要な服―飽きたり、時には一度も着ないままの―はリサイクルに出せば良い・・・ なんという豊かな自由な時代に生き合わせたのだろう、と思ってしまう。僅か50年前まで、体にあう既製服が売ってないからと、布を買ってミシンで手縫いしていた。学校では、自分と子どもの普段着を縫う裁縫・被服管理が「家庭科」で女子だけに必修とされていた。
でも、なんだか、おかしい。材料を購入して手作りするよりもはるかに安いのは、どこかに誰かにしわ寄せが行っているのではないか?
 生産・流通が、大量の廃棄によって成り立ち、劣悪な労働環境で低賃金で働かざるを得ない人びとがいる。リサイクルとは再利用の意味ではないなど…

 こんな「豊かな自由な時代」が続くはずがない…   (2020.8.20むらき)



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 第789号 2020.6.8.「むらき数子 情報ファイル」より
書   名 著者・編集/出版社 本体価格+税 *書評他
『女たちの21世紀』No.100
 【特集】暴力扇動の ダイナミズム ―「 表現の不自由展・その後」 中止事件から考える 


・アジア女性資料センター発行
・夜光社発売
・¥1,320
(税込・送料別)

http://jp.ajwrc.org/category/publication/magazine
『82年生まれ、キム・ジヨン』 ・チョ・ナムジュ
・訳・斎藤真理子
・筑摩書房
・2018
【解説――今、韓国の男女関係は緊張状態にある? 伊東順子
 『82年生まれ、キム・ジヨン』は2016年秋の韓国での刊行以来、百万部という驚異的な売れ部数を誇るベストセラー小説である。
 「これは、まさに私の話です!」
 読者層の中心である二十?三十代の女たちは力を込め、しかし、男たちはなぜか小声になる――というのが、2018年9月現在の本書を取り巻く韓国の状況だ。(下略)】

近所の図書館に予約申込をしたとき、六十何番目かでした。数カ月たって、ようやく貸出しを受け、いっきに読みました。(むらき数子)
『叛逆老人は死なず
・鎌田 慧
・岩波書店
・2019/12/19
・本体1,900円+税
デモに行っても「老人」ばかり.それでもいいじゃないか.もう後もない年齢.何を恐れることがあろう.軍備に金をつぎ込み,人は切り捨て.そんな安倍政権では孫・子のいのちがおびやかされる.
八〇歳超のルポライターが,安保法制,沖縄,原発,冤罪,労働など,いのちのために闘う誇り高き叛逆老人同志に贈る熱いエール.
『マイノリテイの人権を護る 靖国訴訟・指紋押なつ拒否訴訟・BC級戦犯者訴訟を中心として』
 
・今村嗣夫
・明石書店
・2019.10 
靖国訴訟、指紋押なつ拒否訴訟、韓国朝鮮人BC級戦犯者の国家補償請求訴訟など宗教・民族にかかわる裁判に弁護士として関わってきた著者がその経験を踏まえ、多数決で奪うことのできない「少数者の人権」を確立し、民主主義を確かなものとするために綴る書。
『農学と戦争―知られざる満洲報国農場』
・足達太郎、小塩海平、藤原辰史
・岩波書店
・2019.4 
・本体2,500円+税

 戦争末期の1943年から遂行された国策,満洲報国農場.終戦時には70近くの農場が存在したが,その実態は長く顧みられずにきた.
農林省の役人や農学者たちが牽引したこの国策により,東京農業大学の実習生や多くの若者たちが辛酸を嘗め,死へと追いこまれた.
命を支える農業を研究する農学が,そして学生を育むべき大学が,棄民に加担した事実に迫る。  https://www.iwanami.co.jp/book/b450153.html
メアリ・ビーアドと女性史 日本女性の真力を発掘した米歴史家
・村千賀子
・藤原書店
・2019.9 
女性史研究のパイオニア 決定版評伝。

 男性に従属した存在としてではなく、歴史を主体的に創り出す「女性の力」を軸とする歴史観を樹立し、日本におけるGHQの女性政策にも大きな影響を与えたメアリ・ビーアド。
書簡等の一次資料を丁寧に読み解き、その生涯と、日本との関わりを初めて明らかにした労作。
『こころの科学』Special Issue「女性の生きづらさ――その痛みを語る」

・信田さよ子編 ・本体1400円+税
・ISBN978-4-535-90455-2
女性として生きる中で出会う困難や違和感、痛みを、心理臨床という枠を超えて、家族・当事者・社会・性別という多様な位相から語り尽くす一冊です。

 
『原発からの命の守り方』
・守田敏也
・海象社
原発、そして放射能に関連する知識をわかりやすく紹介します。
そして、その極意は「あらゆる災害に共通する事柄は何かと言うと、何よりも可能な限り早く命を守る行動に移ることが対処の鉄則だ、ということです。
「とっとと逃げること」が核心です。
この際、最も大事なのは「とっとと逃げること」を躊躇させるものが、あらゆる災害に共通するポイントがあるということです。
それは災害に直面したときの私たちの心理の働きです。
(続きは→ https://www.kaizosha.co.jp/books/000321.html 
『子どもとつくる平和の教室』はるか書房、2019.1.30



・小薗崇明・渡辺哲郎・和田悠 『子どもとつくる平和の教室』を読みました。
とても興味深かったです。
特に印象に残ったのは、次の章です。
  • 1.なぜ、長野県の人がつくば市まで来て芝畑を作ったのか
  • 4.浅川巧から見た日本の植民地支配
  • 6.戦場に送られた民間人
  • 8.ハジチを禁じられた沖縄女性の葛藤
  • 10.安房の高校生から始まった平和活動
初めて知ったことが多く、後日参考文献にもあたってみたいと思っています。
NPO法人安房文化遺産フォーラムの活動もすごいですね。
いつか、館山に行ってみたいです。

授業実践の記録集でありながら、学校だけでなく、地域での歴史実践も含めてあるのが、ユニーク。 (高橋晶子)
『「偉大なる後進国」 ・菅谷洋司
・アメリカ』現代書館
久しぶりに内容のある本、とても面白く興味深く読みました。
この本ならではの内容が随所に出てきます。
 コロナ禍の折、ご自愛下さい。 (市原 N.I.)
 絵本「カリンのあたらしいおうち」の読み聞かせ動画
・あまの せつこ 作・絵 [あらすじ]
カリンはヤドカリの女の子。新しい家を探しています。ほかのヤドカリから、「 女の子色のピンクの貝殻は人気があるから早く探さないと、男の子色の青い貝殻しかなくなってしまうよ」と言われました。
あわてて海の底へ探しに出かけるカリン。
そこで、ピンキー、ミドリン、チュータの個性的な仲間に出会い、カリンは「本当に自分が好きな色」に気づきます。
仲間と家を探しはじめたとき、乱暴者のアンコラに襲われ、ピンキーが飲みこまれてしまいます
『2050年 世界人口大減少』 ・ダリル・ブリッカー、ジョン・イビットソン著
・河合雅司解説
・倉田幸信訳
・文芸春秋
『一人っ子政策と中国社会』 ・小浜正子
・京都大学学術出版会
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 ・ブレイデイみかこ
・新潮社
・2019.6
図書館に予約を申し込んだとき、順番待ちは276番目でした。
タイトルの英語に“The Real British Secondary School Days”とあるように、11歳になって中学校に入学した息子・ぼく。
イギリスの教育制度って、こうなのか、と思いながら、著者と一緒に、息子の成長をたどっていました。   (むらき)


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